さまざまのこと 18

 

小学校の高学年、四年生、いや五年生のときだったかな、切手収集にいちじ凝った
ことがありました。
葹田(なもみだ)の同級生Mくんと親しくしていたことがあり、
Mくんのえいきょう、というか、Mくんが集めていたきれいな切手を見て、
まねしてみたくなったんだと思います。
いろいろ集めました。
どんなものでも、集めはじめるとおもしろくなりますが、
集めているうちに、知識もだんだん増えてきて、
おもしろさに拍車がかかります。
いつもながらの楽しみ、父と母と弟といっしょに秋田市に遊びにいったとき、
切手を収納するファイルを買いました。
そんなに高価なものではありませんでしたが、
表紙が濃紺、台紙が黒で、
切手を収納するためにページごとに透明なビニールが施されていました。
すでに持っている切手であっても、ファイルに収めると、
台紙が黒だったせいもあり、
なんだかとても立派な切手に見え、
じぶんがいっぱしのコレクターになった気がしたものです。
趣味週間、国際文通週間の記念切手のうち、何枚かは手に入れて持っていました。
趣味週間の見返り美人とか、写楽とか、月に雁など、
いいなぁ、ほしいなぁ、とカタログを見て思ったものですが、
いずれも高価で、
じぶんのものにはできませんでした。
めずらしい高価な切手の一つでも手に入れていたら、あるいは、
もう少しながくつづいていたのかもしれませんが、
濃紺のファイルを使いきるまでには至らなくて、
いつのまにか興味が失せてしまいました。
春風社を起こしてから、いちじ体調をこわして、昼、
ドジョウ鍋を食べさせてくれる野毛のお店にひんぱんにかよった
(それだけがおいしく食べられました)
時期がありましたが、
その店の二階に上がる階段の横に、
菱川師宣が描く見返り美人図が額装されているのを目にし、子どものころ、
短い時間でしたが、
切手収集の趣味があったことをにわかに思いだしました。

 

・母笑むよ屋根の上なる夏の空  野衾