川柳発見
田辺聖子さんの『道頓堀の雨に別れて以来なり 川柳作家・岸本水府とその時代』
を読まなければ、川柳のおもしろさを知らずに終ったかもしれません。
NHK俳句、NHK短歌はあっても、NHK川柳はないし、
それぞれつどう仲間を、俳壇、歌壇といったりしますが、
柳壇という熟語が、
わたしのつかっている国語辞書には出ていません。
また、
わたしの有っている古代から現代までの詩歌をあつめたアンソロジーでも、
川柳は採られていません。
しかし、
田辺さんのこの本で採り上げられている川柳は、まさに、
尽きぬ滋味にみちてい、
悲喜こもごもの人生の味わいがあります。
これまで、なんとなく、駄洒落っぽいなぁ、と、不遜なことを思っていました。
わたしが知らなかっただけで、
川柳、川柳家に対して申し訳ないことでした。
俳句の花鳥諷詠に対し、人間諷詠というのも、なるほど。
この本には、岸本さんをはじめ、
多くの人の味わい深い川柳が紹介されていますが、
まず岸本さんのもので、
もうぜったい忘れないであろう作品、
人間の真中《まんなか》辺に帯をしめ
は、つくづくいいなぁ、
と感服。
人間を詠ってかつ句柄が大きいというのか、
俳句でいえば、
「荒海や佐渡によこたふ天の河」「五月雨や大河を前に家二軒」のごとく広大、
かつ滋味ゆたか、深邃な世界に触れるよろこびがあります。
田辺さんによれば、
岸本さんは、
「柄の大きい作品を示したが、またズレを楽しむ人でもあった」
そうで、
そんな人柄がこの本にはよくでていると思います。
・端居して古書の頁の暗きかな 野衾