わたしの金メダル
小学校一年生のとき、金メダルをもらいました。六十年前のはなし。
学校というところでは運動会があります。
いまもある。
桜木町の駅で電車を降り、会社へ向かう途中に小学校があって、
体育の授業や運動会の様子を目にすることがありますけど、つい階段に立ち止まり、
見てしまいますね。
六十年前の運動会が目の前で演じられているような、
そんな錯覚にとらわれます。
ヨーイ、ドン!
どんな気持ちで走ったのだったか。
かけっこが、
不得意ではないが、そんなに得意でもなかった
のに。
テープを切ったことはたしかですが、あとのことはあまりよく憶えていない。
興奮したし緊張もしていたのでしょう。
気づけば、
胸に金メダルが下がっていた。
軽いカ~ルイ金メダル。
まんまるの厚紙に金の色紙を貼ったのだと、
これは後知恵で、
もらったそのときは、軽かろうが何しようが、
金メダル。
あとから思えば、
担任の伊藤陽子先生がこしらえたものではなかったか
と思います。
うれしかった気持ちも今となっては、
かすみがかかったようになりましたけど、
もらってすぐに、
父か祖父が家の長押に釘を刺し、
そこにしばらくぶら下げていましたから、よほどうれしかったんだろうと思います。
だんだんと、
地球はまるいことや、
光よりも速いものはないことを知るようになって、
紙でできた金メダルが、
いつの間にか、
長押の釘から取り外されていました。
じぶんで外したんだと思います。
金メダルを作ってくれた陽子先生に、
はじめての本『出版は風まかせ』を届けたのは、
それから45年後。
・帰省間近母への手紙投函す 野衾