時の恵み

 

松山千春さんの歌に「時のいたずら」があり、いまもたまに聴くことがあります。
リフレインされる「時のいたずらだね 苦笑いだね」
は、
松山さんの澄んだ声とともに、ふかくこころに沁みてきます。
歌は歌でも『新古今和歌集』に、
時の恵み、恩寵を感じさせる歌があり、
松山さんの歌はキーが高くてとても真似できませんが、
こちらの歌は、
たまに口ずさんでは味わいを楽しみます。

 

長らへばまたこのごろやしのばれん憂しと見し世ぞ今は恋しき

 

峯村文人(みねむら ふみと)さんの訳は、
「生き長らえるならば、また、同じように、このごろが思い慕われるのであろうか。
つらいと思った昔の世が、今は恋しいことだ。」
清輔朝臣(きよすけのあそん)さん
の歌で、
とても九百年ちかく前に作られた歌と思えません。
時代や国を超えて共有される感覚なのかとも思います。

 

・目を上ぐや冬のことばの降りに降る  野衾