つねおくんのこと

 

おとうとから電話があり、つねおくんが亡くなったことを知った。
小学生のころ、
わたしはつねおくんと、
とくに親しくしていた時期があった。
よく話をし、家に帰ってからも、よくいっしょに遊んだ。
こんなことがあった。
あるとき、
川上先生が担任のときだから、
たしか小学三年生。
わたしは親に買ってもらったばかりの新しいベルトを締めて学校に行った。
つねおくんは、それを目ざとく見つけ、
なにか言った。
そのときの印象を、
その時点ではことばにできなかったけれど、
のちに、
『銀河鉄道の夜』を本で読み、
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」
と冷やかしたザネリの顔
を想像し、
ザネリと重ねてつねおくんを思い出した。
しかし、
わたしがして行ったきれいなベルトを見つけ、
なにか言った後のつねおくんの振る舞いは、
ザネリとはまったくちがっていた。
というのは、
わたしが三色の編み上げのベルトをして学校へ行ってから三週間、
いや四週間ほど経ったある日のこと、
一時限目の授業が始まる前に、
つねおくんがわたしのもとへやって来て、
ぺこりと頭を下げあやまった。
けげんに思っていると、
わたしが身に着けていた三色のベルトが羨ましくて、
それであんなことを言ってしまった、
「ゴメン!」
「……」
わたしはだまってつねおくんを見ていた。
「ぼくも三色のベルトが欲しくなって買ってもらった。ほら!」
「あ!」
ほんとだ。ぼくのとおんなじ。
そうか。
そういうことだったのか。
ぼくは、つねおくんは、ほんとうの友だちだと思った。
……………
中学を卒業してから一度もつねおくんと会ったことがなかった。
が、
一度だけ、
帰省した折、買い物をしようとアマノに行った際、
つねおくんによく似た人を見かけた。
「つねおくん」と思ったけれど、どうやら買い物を終えて帰りしなだったし、
少し離れてもいて、人ちがいかもしれず、
声をかけなかった。
つねおくんのことでは、
あとふたつ、
忘れられない思い出がある。

 

・はじめのことば秋冷に葉の揺るる  野衾