月の宿り

 

秋の露や袂たもとにいたく結ぶらん長き夜あかず宿る月かな

 

「秋の歌の中に」と題して詠った後鳥羽院の歌で、『新古今和歌集』433番。
峯村文人(みねむら ふみと)さんの訳は、

 

秋の露がわたしの袂にひどく結んでいるのであろうか。
長い夜を、いつまでも宿りたりないかのように宿って、光っている月であるよ。

 

たもとの涙の露に、
月がいつまでも宿りつづけているというおもむき、
歌人のこころのふるえが、直につたわってくるようで、
好きな歌です。
月が露に宿るとすれば、
旅人である月はまた、
月を見ているわたしのこころににも宿りして、
光を放つ、
かもしれません。
本歌は、
『源氏物語』「桐壺」にでてくる靫負命婦(ゆげいのみょうぶ)の、

 

鈴虫の声のかぎりを尽くしても長き夜あかずふる涙かな

 

・虻となり吾もつどひて微睡みぬ  野衾