根のある理屈は突き動かす

 

「人間はね、理屈なんかじゃ動かねえんだよ。」
は、
映画『男はつらいよ』第一作で、
さくらに惚れている博と寅さんが江戸川河川敷の屋形船のなかでやりあい、
博の発したことばにやり込められそうになった、
そのときに、
寅さんが発したセリフ。
その前のセリフは、
「お前と俺は別な人間なんだぞ。
早い話がだ、オレが芋食ってお前の尻からプーと屁がでるか?」
これぞまさに屁理屈、
屁りくつ、
なんでありますが、
名言ですねえ。納得します。
そうだそうだ、その通り、
と、
福島県会津若松の郷土玩具「赤べこ」のように、
何度でも、
首を縦に振ってしまいますけれど、
ただの理屈と根のある理屈というのがある気がします。
「どぶに落ちても根のある奴は
いつかは蓮の花と咲く」
の歌の文句は、
「根のある理屈」を持っているひとのことを指していると思います。
さて話変ってWBC。
侍ジャパンを優勝に導いた栗山英樹さんは、
大の読書家で、
読んだ本のなかにあることばに感銘を受けると、
それをノートに書き写すそうです。
そのことばを、
ことあるごとに読み返しては、
一日を振り返ってみる。
そういうことが『栗山ノート』に書かれてありました。
その行いを通じて、
ことばが、
ただの理屈を越え、
栗山さんのこころに深く根を下ろしていった、
そう思います。
先週金曜日、
タレントの長嶋一茂さんが「ザワつく!金曜日」に出演し、
栗山監督とのエピソードを語っていました。
ふたりはヤクルト時代のチームメイトで、
一茂さんと栗山さんは35年来の付き合いだそうです。
一茂さんは、
あの長嶋茂雄さんの長男で、
鳴り物入りでプロ野球界に入った人ですから、
当時、どこにいっても、
ファンやマスコミの方々に取り巻かれ、
ひとりになることができなかったのだと思われます。
入団一年目のキャンプで栗山さんと同部屋だったときに感じていた疑問を、
一茂さんは、
侍ジャパンがWBCで世界一になった後、
栗山さんと再会した折に、
あらためて栗山さんに問い質してみたそうです。
「消灯が10時か11時だったんですけど、栗山さんが帰ってこない。
俺、ずっと部屋でひとりぼっちなわけ。
初めて聞いたの、35年前のこと。
『なんで消灯前に部屋にいなかったんですか?』
そうしたら、
『一茂はひとりにさせてあげないと。気をつかって違う部屋にいた』
って言ってくれて…。
そういうことができる人だから世界一になったんです」
一茂さんのそのことばをテレビで知って、
驚きました。
さらに一茂さんは、
「野球を辞めて以来、27年間、ずっと野球がきらいだった。見たくなかった。
なのに、解説を求められれば、楽しそうに解説をしないといけない。
それがすごいつらかった。
でも、栗山野球を見て、また野球が好きになった」
そのことばを耳にし、
思わず、
目頭が熱くなりました。
そして、思いました。
もちろん栗山さんの人柄もあるでしょう。
だけど、それだけとは思いたくない。
倦まず弛まずの日々の努力があってのことだと思います。
本を読み、感銘を受けたことばをノートに書き写し、ことあるごとに読み返しては、
じぶんのこころに、ことばを沁み込ませ、
それが目に見えない形で深く深く根を下ろしていく、
やがてそれが本人の生き方を突き動かし、
チームや組織を変えていく力、原動力になる、
そういうことのような気がします。

 

・地を離れ上へ上へたんぽぽの絮  野衾