お茶目なキーンさん
…………、私個人の一つの経験を話しましょう。初めて留学したのは京都で、
初めのころは、よくお茶の会に引っ張られて行きました。
会が始まる前にいろいろ茶碗を見せられて、
どちらがお好きかと聞かれることがよくありました。
私はだんだん尊敬される方法を覚えました。
つまりそこにある茶碗を見て、
一番私の気にいらないものを選んで、「これがいい」と言うと
「よく外国人が、このよさを理解できましたね」
とみなが驚くのです。
たとえば青磁のすばらしい茶碗と非常に美しい形の中国のものと
古い沓《くつ》のような形のものがあるとすると、
私はその古い沓がいいと言う。
みなびっくりして、
「外国人にそんなにいい趣味があるとは知らなかった」
と言います。
つまり、
青磁とかそれに似たものは中国人が喜ぶものですが、
日本人はもっと変わった、
いびつな形のでなければ、面白くありません。
個性がなければ面白くない。
それは奇数と関係があるのではないかと思います。
(『ドナルド・キーン著作集 第一巻 日本の文学』新潮社、2011年、pp.394-5)
NHKの番組『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン~』
をたまに見て、
出演されている外国人の方の意見に、
「へ~。なるほどね~」
と新鮮な驚きをおぼえることがありますが、
ドナルド・キーンさんのものを読むと、
おもに文学に関わることではありますが、
「へ~。なるほどね~」
と、
目から鱗が落ちる思いをすることが少なくありません。
引用した箇所もその一つで、
こういう肩の凝らない記述から、日本語の特徴である五音、七音について、
日本の建築物の特徴に及んでいく流れは、
ゆったりと自然なものがあって、
えも言われぬ読書の楽しみを味わえます。
・ちろちろと和らぐ朝や虫の声 野衾