ブエノスアイレスのビル・エヴァンス

 

ある男性客が、バーに座りファースト・セットを最初から最後まで聴いてくれていた。
次のセットまでの休憩中、
僕がコカ・コーラを注文しにバーに行くと、彼が話しかけてきた。
「私は出張でね。普段は農業をやっているんだが、仕事で町に来たんだ。
なんとなく、このクラブに立ち寄る気になってね。
こういうジャズは知らないんだが、
ひとつ君に言っておきたかった。
今のは、ある種の宗教的体験みたいなものだった!」
もちろん彼の言葉の意味は理解できた。
彼は農業家だ。
しかし彼は、僕がいつも伝えていると感じるメッセージを、
正確に受け止めてくれたんだ。それは実にうれしいことだった。
(ゼブ・フェルドマンによるマーク・ジョンソン・インタビュー(2021.6.2)
寺井珠重[訳]英文オリジナルライナーノーツより)

 

鎖骨を骨折した折、たいへん世話になった瀬上正仁先生から、
ビル・エヴァンスの最後のトリオによる、
ブエノスアイレスでのライブ盤二枚組CDをいただきました。
かつて海賊盤として出回ったこともあったようですが、
今回、
ライヴ当日のオリジナル・テープ・リール (放送音源) からリマスターされ、
正式盤として制作されたもの。
さっそく聴いてみた。
聴き惚れました。
二枚組CDをつづけて二度まで。
瀬上先生が、マーク・ジョンソンのベースが、
伝説のベーシスト、スコット・ラファロに似ているとおっしゃった意味が
分かった気がします。
また、
1979年、亡くなる一年ほど前の演奏でありながら、
ビル・エヴァンスの集中はさすがと感じられ、
空気感、間のあり方は、
ビル・エヴァンスならではもの
と、
あらためて納得。

 

・上天に烏の声す夏の朝  野衾