野〈や〉の23期目

 

弊社は、本日より23期目に入ります。
22期目は過去最高となる60点の書籍を刊行しました。
百パーセントではありませんが、
ほとんどが学術書です。
2019年に亡くなった日本文学者のドナルド・キーンさんは、
『百代の過客〈続〉』の序で、
「私の関心を最も惹いたものは、日記作者その人の声にほかならなかった」
と記していますが、
この言に準えていえば、
「私の関心を最も惹くものは、学術書を執筆する著者の声にほかならない」
ということになりそうです。
日記もそうですが、
学術書も、
すぐにこれと分かるような形では声を聞くことができません。
ところが、
精緻に記述された学術書を丹念に読んでいくと、
直接ではない、
木霊のようなエコーとして聴こえてくる
と感じられる瞬間が訪れます。
学術書を編集していて、
この瞬間の体験は、
ちょっと他と替えがたい。
それぞれの著者が一つのテーマを追いかけ、研究し、
その過程で思索したことを記述しているうちに、
著者それぞれの体験から発せられる声が学問の峰々に向かって発せられ、
それが、
原稿を精読しているうちに、
静かなエコーとして聴こえてくるのではないか、
そんな想像がもたげてきます。
それが聴こえてくるとき、
学問の営みを通じても、人とつながることができるのだ
という、
確信めいたものがふつふつと湧いてきます。
たとえば。
これまで弊社から、博士論文を書籍化された方が約100名おられますが、
その方々に、
書籍化の過程で考えたこと、
今後の展望について原稿をお願いしたところ、
50名ほどが寄せてくださいました。
これを一書にまとめ、
来春『わたしの学術書』として出版する予定です。
著者それぞれが今後を考えるための一里塚、
またこれから学問の世界で生きていこうとする方々への励ましと参考になればと願っています。
できれば、
シリーズ化することも考えています。
いま学問の世界において喫緊の課題は何か、
と問われれば、
端的に言って「総合化」ということになろうかと思います。
とくに人文系の学問を考えるとき、
学問研究をとりまく環境は決して望ましいとは言えないようですが、
そうであればあるほど、
学問をすることの根本にかえって、
その喜びを探り、記述することが大事ではないでしょうか。
学術書の編集者、出版社は、
その手伝いをさせていただくことに
大いなる喜びを感じます。
23期目もどうぞよろしくお願いいたします。

 

・国道沿い騒音の間の虫の声  野衾