ただかたそばぞかし

 

源氏物語の蛍の巻に、光源氏の語る(すなわち紫式部の)物語論として有名な、
「日本紀などはただかたそばぞかし」
ということばがでてきます。
源氏物語をおもしろく読んだ者として、
主人公の光源氏に、
ということは、
作者の紫式部にそう言われると、
そうだよなあ、
日本書紀を初めとする、
いわゆる正史なるものは、
歴史のことがらのほんの一面に過ぎないかもなあ、
そんなふうに感じられ、
古事記は、
三浦佑之さんの口語訳で読んだものの、
日本書紀については、
式部先生の御説にならうかたちで、これまで読んできませんでした。
ところが、
里中満智子さんの『天上の虹 持統天皇物語』
を読み進めるにつれ、
ああ、これは、
里中さんの源氏物語であるな、
とも感じられ、
日本書紀をちゃんと読んでみたいと思い始めました。
『天上の虹』は、
三十年以上を費やした、
いわば里中さんのライフワークとも呼べる作品で、
コミックで23巻ありますが、
巻が進むほどに、
ぐいぐい物語に引き込まれます。
これから18巻目。
ええっ、こんなこと本当にあったの?
と疑問に思い調べてみると、
実際にあった話で、
日本書紀に記されている、とくに天智、天武、持統の三天皇周辺のことは、
きちんと事実を押さえているのがよく分かります。
よくぞ描いたものだと思います。
素晴らしい!
このマンガは、大化の改新から始まっています。
なので神代の話は出てきません。
ここに里中さんの歴史認識があると思います。
日本書紀を読むための大きなモチベーションを『天上の虹』が与えてくれました。

 

・首筋を撫でて背中へ溽暑かな  野衾