ボルヘスの耳

 

―――文学との最初の出逢いは、どのようなものだったのですか。
―――初めて読んだ本は、たしか英訳のグリム童話だったと思います。
実物を覚えているような気がしますが、しかしほかの本のものかもしれません。
学校や大学でより、父の図書室で学ぶことが多かったのです。
祖母のことも忘れるわけにはいきません。
祖母は英国人でしたが、聖書をそらんじており、
おかげで私は聖霊の手引きによって、
あるいは、
おそらく我が家で耳にした詩を通して、
文学の道に入ることができたというわけです。
(J・L・ボルヘス編纂/序文『新編 バベルの図書館 6』国書刊行会、2013年、p.631、
引用箇所は、1973年4月、
ブエノスアイレスの国会図書館で行われたものの冒頭部分。訳は鼓直)

 

引用箇所を読み、深く納得するところがありました。
聖書を読んできたこころからすると、
アウグスティヌスをはじめ、
たとえばトマス・アクィナス、ルター、カルヴァン、バルト(カールのほうの)などは、
おもしろいところ、教えられるところは
もちろんあるけれど、
どうしてあのような小難しい議論になるのかな
という気持ちが抜きがたくあったし、
いまも少し、いや、けっこう、あります。
聖書は、
耳で読む本か、という気がこの頃しますから、
ボルヘスのエピソードはとても面白く、
また、
ボルヘスがつくる詩や短編のこころに触れた気がします。

 

・鶯の声ほころびて青さかな  野衾