読み継がれる本

 

全体主義の支配している国ですべての人が信じることのできる唯一の規則は、
ある機関が公的なものであり人によく知られていればいるほど
その保持する権力は小さいということである。
この規則によれば、
広く知られている成文憲法を
国家の最高の権威として認めているソヴィエトは
ボリシェヴィキ党ほど権力を持っていない。
そしてまたこの党は、
党員を公募し、
すべてのものから真の支配階級と見なされているのだから、
秘密警察ほど権力を持っていない。
権力はつねに公開性がなくなるところから始まるのである。
(ハンナ・アーレント[著]/大久保和郎・大島かおり[訳]
『新版 全体主義の起原 3 全体主義』みすず書房、2017年、p.172)

 

情報公開の重要性について、改めて考えさせられる。
すぐれた政治哲学者であるハンナ・アーレントの本の魅力は、
なんといっても、
見聞を含めての実体験とそれに基づく思考が、
あざなえる糸のごとくに展開すること。
最初に英語版で発表されたのが一九五一年というから、
いまからちょうど七十年まえ。
しかしいまも途切れずに読まれている
ということは、
それだけの理由があると納得する。

 

・春寒し遮断機の音高鳴れり  野衾