読書尚友

 

高校一年生のときに夏目漱石の『こゝろ』を読んでぶったまげ、
それをきっかけにして
本の世界に入ったようなわけですが、
実人生としては日本の昭和を生きつつ、
本の世界はまさにどこでもドア、
時空を超えます。
その感覚はいまも続いているけれど、
このごろは、
作品の内容もさることながら、
自然と作者に意識が向かい、
どんな人生を送った人だろうと、
興味が湧くようになりました。
修道社版柴田天馬訳の聊斎志異を少しずつ読みながら、
原作者である蒲松齢の人生を思わずにいられません。
500篇ほどの怪異譚には、
狐や虎をはじめとする動物が
人間に成り変って登場するものが少なくなく、
それが人間以上に人間の魅力を湛えているように感じます。
ある方が月報で、
松尾芭蕉の野ざらし紀行を引き合いに出しながら、
捨て子への眼差しと重ね合わせ、
「無心」のこころを書き留めておられた。
そうか、
裏と表があるのが人間で、
そうでない人間はいない。
蒲松齢は人間という生き物をそういう風に見て、
怪異譚をあつめ書いたのではないか。
そんなふうに考え始めると、
時空を超えて近しく親しい友人が一人できたようにも感じられ、
しみじみした感慨に浸り、あそび、
本っていいなあ、って思います。

 

・寒の朝蛍光灯下ドリルかな  野衾