吹雪のこと

 

二十年ぶり、いや、それ以上かな、
久しぶりに故郷に帰らず、ここ横浜で静かに過ごしました。
秋田に電話をし、
「きょうだば、朝がら、ふぶいでるど」
と父から告げられると、
目の前に、
黒く迫ってくる圧倒的な吹雪の波が浮かびます。
大好きだった祖父は、
2001年5月29日、九十八歳でこの世を去りましたが、
祖父から吹雪にまつわるこんなエピソードを聞いたことがあります。
祖父がまだ若かったころ、
とても賢い馬を飼ったことがあったそうです。
自慢の馬だったのでしょう。
動物好きの祖父は、
主人の言うことをよく聞き、指示に従い、
また主人のこころをよく分かるその馬をたいそう気に入っていた。
あるとき、
用事があって馬に乗り遠出をしての帰るさ、
一天にわかにかき曇り、
やがて猛烈な吹雪になった。
祖父は、
まさに人馬一体となって帰路に就いた。
すると、
道を確かめ確かめ進んでいるのに、
また同じ辻に出てしまう。
まちがえたと思って、
こころを落ち着かせ進むと、
またまた同じ辻に出てしまう。
あの賢い馬が家への道をまちがえる筈は無いのに、
と思ったら、
恐ろしくなった。
あれは……、
というような思い出話で、
わたしも聞いていてゾッとした。
人を寄せ付けない吹雪もまた故郷のだいじな景色です。

弊社は今日が仕事始め。
本年もよろしくお願い申し上げます。

 

・仕事始め前日の緊張感  野衾