声に恋する その2

 

井土ヶ谷に住んでいた頃のこと、
すでにステレオ
(まだオーディオという言い方を、わたしはしていなかった)
を持っており
好きな音楽を聴いていましたが、
ラジオもあって、
休日、
たまたま聴いていた音楽番組で、
とんでもない声の女性歌手の歌を耳にした。
声がキラキラ光っているようであり、
光が七色に輝いて聴こえる。
まさに、
レインボーボイス!
若き日に、初めてオリビア・ニュートン=ジョンを聴いて昂奮した日
を思い出しながら、
歌い終わった後の、
進行役のひとの話を聞き逃すまいと耳を澄ました。
シンディ・ローパー。
こんどはそんなに長い名前ではない。
ラジオのスイッチを切り、
すぐに身支度をし、
小走りで井土ヶ谷駅まで急ぎ、
京浜急行の電車で横浜駅へ向かった。
都市は、
鄙とちがってこういうときのストレスが少ない。
あのとき買ったのがレコードだったか、
CDだったか。忘れてしまった。
いま手元にあって、
たまに取り出して聴くのはベスト盤のCD。
オリビア・ニュートン=ジョンが興奮の頂点で、
つぎの山がシンディ・ローパー。
ほかにもいるけれど、
昂奮度という点では、
だれのどんなひとの歌を聴いても、
齢とともにそのレベルが下がっていった。
昂奮度は下がっていったけれど、
それと反対に、
別の目盛りが静かに動き始めるようになった。

 

・くつさめの滑舌宜し律義者  野衾