丘の上から階段を下り、踊り場で方向を変え、下を見ると、
一匹の猫と二羽の烏がいた。
にんげんであれば、
さしずめ階段の途中で世間話に興じている、
といった風情。
わたしはしずかに階段を下りていった。
二メートルほどに近づいたとき、
一羽の烏が飛びのいて、傍の木に移動した。
猫はうずくまったまま、後ろ脚の付け根の辺りを舐めている。
もう一羽の烏は、
鉢植えの花をよく置いてある家のブロック塀の上にいて、
わたしが横を歩いても飛びのく風でもなく、
カッカッカッと、
首を数回小刻みにかたむけた。
そばで見る烏は、大げさでなく、鶏ほどの大きさに見える。
羽は黒々と光っている。
視線を階段に戻し、ゆっくり、そろり、
階段を一段、二段、三段、
と、
バサバサッ。
な、な、な、???
大きな黒い邪な力が帽子にさわった。
烏!
からかうようにして頭上を飛び去ったかと思いきや、
すぐ下の、アパートの屋根に止まった。
あやうく帽子を掠め取られるところだった。
帽子をかぶっていなかったら、
想像するだに、恐ろしくなった。
何ごともなかったかのように、烏はジッとこちらを見ている。

 

・鼻唄も母との旅を秋の朝  野衾