学問の貢献度

 

社会の要求というものは性急である。
とくに、めまぐるしく変化する現代にあっては、社会は、
いますぐ役にたつものを欲しがる。
学問にも、それを求める。即戦力になる学問を期待するのである。
だが、
いささかなりとも学問の世界に足をふみ入れたことのあるひとなら、
本当の学問・研究がそんな即効薬みたいなものでない
ことはじゅうぶん知っている。
即効薬をつくるには、
まずその前に地道な基礎研究の時間がなければならず、だが、
基礎研究そのものは、じつは現実社会でほとんど直接の役にはたたないのである。
社会生活に直接役にたつかどうかは、だから、
その学問が社会に貢献しているかどうかの指標にはならない。
そもそも、
学問や研究というものは、俗世間のいとなみとは縁が薄いものなのだ。
ノーベル賞受賞者の知名度が受賞前後で天地のひらきのあることが、
それを如実に示している。
(白石良夫『うひ山ぶみ』解説、本居宣長「うひ山ぶみ」全訳注、
講談社学術文庫、2009年、p.41)

 

寛政10年(1798)に35年の月日をかけた『古事記伝』を完成させた宣長は、
古学の入門書『うひ山ぶみ』を一気に書き上げました。
その全訳注を白石良夫さんがやっていて、
冒頭の解説に、上で引用した文章がでてきます。
白石さんのプロフィールを見ると、
九州大学大学院修士課程を終了後、
1983年に文部省(現在の文部科学省)に入省し、
教科書検定に携わってもいます。
文部省に、
こういう考えをもつ人がいたということに驚きます。

 

・秋の風白くなりゆく内外(うちと)かな  野衾