化学と染料

 

19世紀の後半には、パストゥールやコッホの研究に基礎を置いて細菌学が発展し、
伝染病の原因として細菌が特定された。
コッホは1872年に顕微鏡観察の際、アニリン染料で細菌を選択的に染色した。
1889年コッホの助手であったエールリヒは
適当な染料を使えば細菌を殺すこともできるであろうと考え、
1891年にマラリア原虫にメチレン・ブルーが作用する
ことを見出した。
こうして化学療法が始まり、
選択的に細菌に作用し、
副作用をもたない有機化合物を体系的に探索する試みが始まった。
これらの試みが実を結んで、
梅毒の治療薬サルバルサンなどが開発されるのは20世紀になってから
のことであるが、
化学療法は染料化学から分かれて誕生したといえよう。
(廣田襄『現代化学史――原子・分子の科学の発展』京都大学学術出版会、
2013年、p.146)

 

高校時代、化学の授業を受けましたが、
化学式の計算問題ばかりをやらされた記憶があり、
おもしろかったという印象は、
残念ながらありません。
親しくしている京都大学学術出版会専務理事の鈴木哲也さんが薦めていたので、
廣田襄さんが書いた『現代化学史――原子・分子の科学の発展』
を読みはじめたところ、ぐいぐい引き込まれます。
化学は、化学だけではないでしょうけれど、
世界の神秘を解き明かそうとする姿勢がその根本にある
ことを、
この本は気づかせてくれます。

 

・蜩や十月十日を海の旅  野衾