田所康雄の風
辣韮を漬けて一日終りけり
NHK・BS2で放送された
「渥見清の寅さん勤続25年」の録画DVDを
貸してくださる方がいて、
きのう、さっそく見てみた。
シリーズ「男はつらいよ」は48作品あるが、
第47作にあわせ、収録風景や渥見清の
インタビューが撮られている。
体調がすぐれなかった頃のインタビューで、
顔色衰え、声にも力がなかったが、
そこから垣間見えるものは、
役者・渥見清というよりも
本名・田所康雄さんの素顔とでもいったものであった。
上野界隈で生まれた田所さんは、たまにふらっと
生まれ故郷に帰ってみることがあったという。
そのときの印象を、
「ポカーンと虫歯の穴のように開いていて」
と表現していた。
「歯が抜けたように」ではない。「虫歯の穴のように」。
また、「男はつらいよ」以外の映画で、
アフリカに長く滞在した折に
収録されたインタビュー(若い!)では
アフリカの風の印象を、
「どっかのマンションに当たって、ガソリンスタンドの脇を通ってきたっていうような風じゃなんだな。なんていうのか、地球に当たる前からどっかから吹いてきたっていうね」
昨年から今年にかけて
「男はつらいよ」をDVDでずっと見てきたけれど、
昨日「渥見清の寅さん勤続25年」を見、
渥見清の地にある田所康雄さんを吹き抜ける
虚無の風に惹かれてのことだったかと思わされた。
温かい人情とは真逆の、あるいは、
その底を吹き抜ける風は決して生温かくはない。
渥見清は晩年、放浪の俳人・尾崎放哉を演じたかったという。
擂りおろし汁を啜るや夏大根
小林信彦さんの『おかしな男 渥美清』に活写されているのも、田所康雄の方ですね。
「虚無」ということばがとても似合う人だと思います。
中村昇さま
コメントをありがとうございます。
昨年、坂本長利さんの一人芝居「土佐源氏」を見る機会がありました。
入口で渡されたパンフレット類の中に、これまでの上演記録とエピソードが記されていて、何度目かの時の芳名録の写真が載っていました。
そこにわたしの師匠・竹内敏晴さんの名前があり目をみはったのですが、その隣に渥美清の名前がありました。
面白い取り合わせだと思って記事を読んだのですが、
渥美清は坂本さんに、「あの変な芝居、まだやっているのかい」と声を掛けたことがあったそうです。
ああいう芝居にも興味があったんですね。