昔あへる人

 

『万葉集』『古今和歌集』につづき、
ただいま『新古今和歌集』を毎日少しずつ読んでいますが、
前のふたつの歌集と比べ、
恋愛に関する歌が圧倒的に多く、
人生との兼ね合いからいろいろ感じ、考えさせられます。
たとえばこんな歌。

 

今までに忘れぬ人は世にもあらじおのがさまざま年の経ぬれば

 

『新古今和歌集』1366番。
『伊勢物語』から取られている歌で、峯村文人(みねむら ふみと)さんの訳は、

 

今までに、思い合った相手を忘れない人は、決してあるまい。
めいめいさまざまな生き方で、年がたってしまったのだから。

 

さらにページの頭注にこんなことが書かれてあり、
脚注にある峯村さんのコメントとあわせ、
味わい深いものがあります。
いわく、
「『伊勢物語』によると、若い男女が恋を語り合っていたが、
二人とも親があって遠慮し中絶した。その後、男が女に詠み贈った歌。
『伊勢物語』の伝本により、
男が志を遂げようとして詠み贈った歌とも、
志を遂げようといってよこした女への、
男の返歌とも、贈った歌とも。
『古今六帖』には、詞書「昔あへる人」。」
『伊勢物語』に既にあり、
また私撰の和歌集『古今和歌六帖』にも入っているということは、
それだけ、この歌に、
恋の変らぬあり様を歌い、伝えて、力がある
ということなのでしょう。

 

・野の道をさそはるるまま秋の風  野衾