蝙蝠 2

 

・香箱をつまみ尽くして箱残る

漱石先生が日向ぼっこしながら、
己の陰嚢の皮をひっぱりひっぱりし蝙蝠みたいじゃないかと、
鈴木三重吉に語った話からの連想ですが、
(こういう話からはなぜか連想が拡がります)
陰嚢の皮だけでなく、
痩せぎすの老人というのは、
体全体が蝙蝠的。
蝙蝠というのは、
肉がない感じでまさに骨皮筋右衛門。
ん~、
例えば、川端康成さんのような。
銭湯に行き脱衣場で服を脱いでいると、
川端さん風の老人が少なくありません。
蟹股の老人が
猿股をようやく足から抜き取り、
よろよろしながら
誰も見ていない前を隠し湯舟に向かう姿は、
大きな蝙蝠が歩いている姿に見えないこともない。
いや、見える!
とくに、
痩せた老人の尻というのは、
人生の荒波に揉まれてか、
大殿筋がすっかりこそげ落ち、
頬がこけたようにこけ、
こけこっこー、
いや、
冗談でなく、
哀れがっちゃぎ。
老婆の垂れ乳と
老爺の垂れ尻ほど
人生の悲哀を感じさせるものはない。
年をとれば人は皆、
蝙蝠になってちょぼちょぼ歩き、
やがて傘のようなる羽を拡げ、
まだ見ぬ世界へと独り旅立って行かねばなりません。
嗚呼。

・海鼠噛む我の歯未だ大丈夫  野衾