線引き

 

『本の虫の本』(創元社、2018年)は本の虫五人による共著ですが、
そのひとり田中美穂さんは、
岡山県倉敷市で「蟲文庫」を営んでおられる方。
そのひとの文章に「消しゴム」があります。

 

消しゴムを何に使うかというと、鉛筆による線引きを消すためだ。
きれいに消えて新品同様になるのならば
数百円から数千円をつけることができ、
無理なら百円くらいで出すしかない。
(同書、p.112)

 

やはりそうであったか、
と思いました。
古本を求めたとき、
ボールペンや万年筆の線が引かれているのはやむを得ないこととして、
鉛筆による線引きが、
消されている(ようく見ると、雪道の轍のように、へこんでいてそれと分かります)本と
そうでない本があり、
消されている本というのは、
売り手が古書店に持ち込む前に消すのか、
それとも、
古書店の店主が消しているのだろうか
どっちだろうと思っていました。
じぶんのことを考えても、
どっちもありとは思いますけれど、
古書店主がそうしている
ことを書いた文章を読むのは初めてでした。
ばあいによっては
何時間もかけ、
見開きページのすき間に消しゴムのカスが入り込み、
薄い定規で取り除くこともあるのだとか。
そうして値付けされた本は、
これはこれで幸福な一冊といえるでしょう。
蟲文庫を訪ねてみたくなりました。

 

・忘れもの思い出してる花ぐもり  野衾