昌益の心意気

 

三月に予定している対談の予習にと、
『稿本 自然真営道』(平凡社)『統道真伝』(上・下 岩波文庫)
を読むにつけ、
狩野亨吉が昌益の原稿を発見した際、
この人は狂人ではないかと怪しんだというエピソードを思い出した。
儒教であれ道教であれ仏教であれ、
耕さざる者食うべからず
織らざる者食うべからずの精神で、
あらゆる学問をバッサバッサとなぎ倒す。
孔子であれ釈迦であれ、
昌益の刃にあてられてこなごなに飛び散る。
それが徹底している。
読みはじめて間もなくの頃は
小気味いいぐらいに感じたものの、
読み進むうちに、
このひと本当に頭がどうかしているんじゃないか
と思いたくもなってくる。
昌益の主著を読み終えたので、
若尾政希著『安藤昌益からみえる日本近世』(東京大学出版会)
をひらいてみた。
まだ半分ほどだが、
昌益が生まれ育った時代の秋田の政治状況、
農村の疲弊した姿が浮かび上がってきた。
徳川吉宗の時代、
享保の改革が深くかかわっていることも教えられた。
昌益は現在の秋田県大館市の生まれ。
昌益にかぎらず、
ユニークな思想家の思想というのは、
それだけ見ていたのでは分からないものかもしれない。
後世のひとから見ればユニークと思えても、
なぜそういうユニークな考えを持たざるを得なかったか
の視点が欠かせないようだ。

 

・大寒の烏の影の蔽ひけり  野衾