紙を読む

 

ひと月ほど前、
横浜線の電車に乗っていたときのこと、
盲導犬に曳かれた初老の男性が乗り込んでき、
わたしの向かいのシートに座りました。
犬は男性の足下にうずくまりおとなしくしています。
男性は背中のリュックを下ろし、
なかからA4判の紙の束を取り出して指先を移動させていきます。
一ページめくるのにそんなに時間はかかりません。
ときどき犬の頭をなでたりしています。
そしてまた指先がページに戻ります。
車内がシーンとし、
そこだけうすく光っているようにさえ見えます。
紙はこうして読むものだと、
視力のあるなしにかかわらずなのだ
と思いました。
だいじなことを教えていただいた気がします。

 

・からぶれど姿ただしき冬の山  野衾