他人事でない

 

病院の待合室でのこと。
ゆっくりと滑舌のいい大声が聞こえてきました。
ゆっくりと、滑舌がいいので、
遠くにいるわたしのところまではっきりと
聞こえてくるのです。
「ど・う・に・か・な・ら・な・い・も・の・か・ね・え。
い・つ・ま・で・ま・た・せ・る・つ・も・り・か・ね・え。
い・み・が・あ・る・の・か。
あ・あ・い・た・い・い・た・い。
こ・し・が・い・た・い。
ど・う・し・た・ら・い・い・ん・だ・ろ・う。
びょ・う・い・ん・に・き・て・も・こ・う・か・が・な・い・か・ら
ク・ス・リ・だ・け・も・ら・っ・て
か・え・る・わ・け・に・は・い・か・な・い・の・か・・・」
一音一音はっきりとした
途切れ途切れのことばを聞いているうちに、
そのつぶやきともうったえともつかない
こころの叫びが、
抜き差しならないものとして迫ってきます。
あ・あ・い・た・い、は
「ああ痛い」でしょうけれど、
「会いたい会いたい」とも聞こえます。
ど・う・に・か・な・ら・な・い・も・の・か・ね・え。
ど・う・に・か・な・ら・な・い・も・の・か。

 

・禿(かむろ)上ぐ汽笛ここまで冬の空  野衾