いくつになっても

 

駅近くの喫茶店でほかの役員二人とお茶を飲んでいたときのことです。
わたしたちのとなりにある、
いちばん奥の四人掛けのテーブルに
女性一人と男性三人がやって来ました。
見た感じ後期高齢者であることはほぼ間違いありません。
女性は上品で美しく、
若いころならさぞやと想像されます。
男たちはといえば、
テーブルにつくやいなや
どうでもいいような話を大声で話し、
挙句の果てにテーブルをバンバン掌でたたく始末。
時間帯からして、
久しぶりにかつての同級生がつどい、
食事をしおそらくアルコールも少したしなみ、
いい気分になって、
お茶でもしようか
そんなことだったのかもしれません。
それにしても。
うるさいなぁ。
もうすこし静かにしてくれないかなぁ。
そうも思いましたが、
そのガハハなくだらない話を耳にしているうちに、
なんとなく懐かしい空気を感じました。
なるほど。
そうか。
この女性に自分の存在をアピールしているんだな。
そう考えると、
どうでもいいような話の中に、
ちょこっとイギリスのお茶の習慣や
珈琲茶碗の品定めに関する蘊蓄を挟んだり、
かすかな知性のかけら
とでもいったものを無理やり感じさせるような話の運びであり、
恥ずかしくもあり、
他人事と思えなくなりました。
その間、
女性はだまったまま。
どんな気持ちで男たちを見ていたか、
聞いていたか、
それは分かりません。
彼女が飲み物をたのむとき、
「わたしは」でなく
「わたくしは」
と言ったのが耳に残りました。

 

・暮早し影二つあり伊良湖崎  野衾