猫山

 

わたしが住んでいる山には野良の猫がけっこうおりまして、
エサは上げずに声だけかける。
「おはよう」
「……」
「元気か?」
「……」
「寒くなったな」
「……」
「こたつでまるくなるタイプのおまえにはきつかろう」
「……」
「え、野良だから。そうか。なるほど」
「……」
「エサはあるのか」
「……」
「じゃあな。風邪ひくなよ」
「……」
猫のことばを知らないわたしは、
一方的に
ニンゲンのことばで話すしかなく、
その間、
猫はだまって
こちらを見ているだけ
ですが、
目をそらさぬところをみると、
まあ、話の主旨というか
傾向はおおむね分かっているのかもしれません。
通り過ぎて振り返ると
まだ見ていたりしますから、
きっとそうなのでしょう。

 

・程ヶ谷を過ぎて秋踏む足裏(あうら)かな  野衾