リヤカーの句

 

吉行和子・冨士眞奈美の
『おんなふたり奥の細道迷い道』をおもしろく読みました。
本の帯に
「抱腹絶倒な俳句人生論」
となっており、
興味津々。
抱腹も絶倒もしないけれど、
たしかに笑えます。
もうひとり岸田今日子を入れ三人大の仲良しだったわけですが、
岸田さんが先に亡くなり、
吉行さんと冨士さんのふたりが残されました。
長年の友だちですから、
肩の凝らないいわば普段着のままの会話が
録されており
読んでいてなんとも心地よい。
たとえば。
芭蕉の『奥の細道』について話しながら、
男の涙が話題となる箇所があります。
芭蕉の「塚も動け我(わが)泣(なく)声は秋の風」
に冨士さんが言及すると、
「すごいよね。「塚も動け」だもの、大げさよね」
と吉行さん。
さらに、
「男は一生で何回くらい泣くのかなあ」
それに対して冨士さんは、
「昔は親が死んだ時って言ってたけどね」
この展開、
仲のいい、しかも女同士ならでは
と思わせるではありませんか。
と、
読んでたのしく愉快な本ですが、
それぞれの詠んだ俳句も載っており、
そのなかに、
冨士さんの「汗のリヤカー北上撮す友のあり」
がありました。
東日本大震災の後、
石巻を訪ねた折につくった俳句のなかのひとつ。
「汗」「リヤカー」「北上」「撮」
といえば、
これはもう橋本さんでしょう。
そう、写真家の橋本照嵩さんです。
橋本さんは吉行さん冨士さんの句友でもありますから、
宜なるかな。
この本にぐっと近づき、
なかに入り込んだ気がしました。

 

・大きさを目で測りけり新秋刀魚  野衾