空気感

 

・冬晴れの青清々と白き富士

 

タモリが好きなアルバムだというので、
聴いてみました。
ライオネル・ハンプトンの
『スター・ダスト』
いいですねえ。
ライブ会場の空気感がじわり伝わってきます。
レコードならなおさらでしょう。
このごろレコードの売り上げが伸びているらしく、
つられてレコードプレーヤーも
それなりに
売れているのだとか。
作詞家の松本隆がテレビで言っていました。
はっぴいえんどの音楽を、
高級オーディオでいろいろ聴かせてもらったとき、
レコードがいちばん
はっぴいえんどらしく聴こえたと。
レコードは空気感まで再現するのでしょう。
その点、CDとなると、
なんとなく
つるんとしているというか…。
手触り、肌触り、空気感は失くしたくない。

 

・息白し富士に掌合わす女あり  野衾

 

かつらやさん

 

・我が影も深く被るや冬帽子

 

保土ヶ谷橋の交差点から
JR保土ヶ谷駅へ向かう国道一号線沿いには、
昭和の時代をほうふつとさせる店が並んでいます。
かつらやさんは洋服のお店。
「センスとおしゃれ」の表示がなつかしく。
朝、
その前を通ると、
ガードレールの下に置いた
使わなくなったストーブを椅子代わりにして、
白髪のおばあちゃんが端座しています。
道行く人の邪魔にならず、
道行く人を見るでもなく、
店のほうを向いて、
ほんの少し首を上下に振っています。
天気のいい日も悪い日も、
きちんと座って店のほうを向いています。
店を守っているのでしょうか。

 

・カップルがマフラー一本鎌倉感  野衾

 

横浜国大

 

・まだ落ちぬくるりくるりの落葉かな

 

打ち合わせのため、
編集長、武家屋敷、わたしの三人で。
自然環境にめぐまれた広大な敷地にある大学、
ではありますが、
横浜駅からのアクセスがいまいち、
バスで行くしかありません。
たとえば初夏ならば、
これぞ大学、まさに大学、
ゆっくり歩くだけで
息が深くなり、
わくわくうれしくなりますが、
いまの季節はちとやばい。
かなりひじょうにとても寒いことが想像され、
ズボンのポケットに一個ずつ、
腰に一枚、
計三個のホッカイロで身を固め、
キャンパスに踏み込んだのでした。
打ち合わせの時刻まで少し間がありましたので、
学生センターの建物のなかへ。
日の当たるコーナーにてしばし休憩。
お日様の光のありがたく。
ホテルのような大学が増えている昨今、
でんと構える
大学らしい大学です。

 

・地上より上へ上へと舞ふ落葉  野衾

 

自転車

 

・蜘蛛のごと道を這ひずる落葉かな

 

家を出て保土ヶ谷駅を遠くに臨む坂道を歩いていたとき、
わたしを追い越して自転車が
ゆっくり坂を下りてゆきました。
いまは電動アシスト自転車が多くなりましたが、
ふつうの自転車でした。
バランスを取りながら、
ゆっくりゆっくり下りてゆきます。
それを眼で追いかけているうちに、
両脇の補助車を外して乗った子どもの頃のことが
不意に蘇りました。
こわごわ
ワクワクドキドキして。
もう何十年も乗っていませんが、
きっと乗れるでしょう。
体は忘れません。
歩いているときとも
走っているときとも
バスに乗っているときとも
汽車に乗っているときともちがう、
あたらしく
いま生まれたような景色、
嬉しくて、
はしゃぎたくて
わけもわからず泣きたいような、
父と母に別れを告げるような、
たとえばそんな気持ちで追いかけた。
自転車に乗ると、
いつも風景があたらしかった。
体はずっと忘れません。

 

・ピエロとや銀杏落葉の音かなし  野衾

 

夢であいましょう

 

・逆立てる羽に埋もる冬の鳩

 

山の上の高校に向かっていた。
とうに卒業しているはずなのに、
なんの用事か。
K君も歩いている。
前の職場でいっしょだったK君がぼくの高校になんの用事だろう。
家からだったのか、
途中から合流したのか、
九十八で亡くなった祖父までが…。
三人そろって、
お堀端にあるパチンコ店に入った。
祖父とK君の間に挟まれ椅子に腰かけた。
千円、また千円。
二分とかからない。
この台は遊ばせてもくれない。
おもしろくない。
席を立った。
K君もダメなようだ。
祖父ももちろんダメだったが、
立ち上がろうとはせず、
わたしから少しおカネを借りようとする気配なので、
仕方なく、
財布から二千円をだして祖父に渡した。
「ありがとう」と言って、
祖父は自分の財布をだし、
渡した二千円をしまい込むのだった。
そのとき、
祖父の財布には
五千円札が一枚しのばせてあった。
五千円あるのなら、
なにもぼくから借りなくてもいいのにと思ったが、
そのことは言わずにパチンコ店の外へ出た。
祖父の性格を考えた。
わたしが貸した二千円をなくし、
五千円札にまで手を付けたら、
祖父は家に帰れなくなってしまう。
いや、そこまで使うことはないだろう。
わからない。
きょうはいいことあるだろうか。
曇っていくようなのだ。

 

・冬の空どこ吹く風のこころかな  野衾

 

光陰如箭

 

・昼の蚊を探して二日漱石忌

 

月に一度句会を開いている大佛茶廊に
軸がかかっており、
今回は「光陰如箭」
こういんじょぜん。
光陰箭の如し、箭は矢。
軸をよく見ると
「光陰」と「如箭」を分けるように
箭(矢)の絵が描かれていて、
おもしろい。
いわゆる上手い書ではないかもしれませんが、
味という点では深い味があり、
つい見入ってしまいました。

 

・枯蟷螂かしら微かに動きけり  野衾

 

さろう句会

 

・干鮭(からざけ)の裂けたる腹の赤さかな

 

鎌倉ゆかりの作家・大佛次郎がかつて所有していた建物が
そのままのかたちで現在カフェになっており、
月に一回そこで句会を催しています。
今月は六人の参加。
十三回目となりました。
ひとり二句の雑詠で、
欠席者のものを含め投句は十八。
そのなかから
自作を除外し、
これはと思うものを五つえらび、
そのうちの一句を
特選とします。
わたしも二句投句しましたが、
上の「干鮭~」の句がトップでした。
もう一句は、
ふたりがえらんでくれたものの、
さほど点は集まらず。
点数がすべてではないとはいえ、
えらんでもらえると
素直にうれしく、
さらにがんばろうという気になります。

 

・吹かるるや重さ失くして落葉かな  野衾

 

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