陸の兄弟船

 

・稲架(はざ)の裏じゃんけんぽんでもーいいかい

 

いったんは今年をもって田仕事を終え、
業者に委託する
と決めていた父ですが、
コンバインに乗って米を収穫しているうちに、
だんだん楽しくなってきて、
またふつふつと
やる気が湧いてきたらしく、
まだやめないよ、
と、
秋田から電話がありました。
「へ~、そうか。そりゃよかった。がんばれよ」
「おうっ。がんばるよ。あはははは…」
父の心変わりの要因は
いろいろ考えられるわけですが、
いちばんは、
すぐ近くに住む
叔父のサポートであると思われます。
米の収穫において
最大の困難は、
今の時代ならば、
コンバインが田のぬかるみに埋まること。
一度埋まると、
ちょっとやそっとで引き上げられない。
もちろん一人では引き上げられず、
何人もして引き上げ、
本来の仕事はしばしお預け、
精も魂も尽き果てへとへとになる。
なるらしい。
わたしには実体験がないので
想像の域を出ませんが、
ほんとうに大ごとらしいのだ。
そのことがあるから、
高齢とあいまってもう田仕事は無理、
とこうなる。
それを回避するために、
父より九つ下の叔父は細心の注意を払い、
収穫時期のずいぶん前から
田を見て回り、
水捌けのよくない個所を入念にチェック、
コンバインが埋まらぬよう
水を逃がし、
土を補充するなどしていた。
そういう日々の積み重ねが功を奏し、
父はあと一年、
あるいは二年、三年と、
田の仕事を続けたいと思うようになった。
(九十歳までやったらギネスものか)
叔父にお礼の電話をすると、
叔父いわく、
人一倍ていねいな仕事をする父が、
業者の仕事ぶりに満足するはずがないことは
目に見えており、
なんとしてでも元気になってもらい、
あと数年
頑張ってもらいたかった…。
叔父の熱意と働きが、
父のこころのスイッチを切り替えたのでありました。
陸の兄弟船。

 

・アンテナに端然秋の烏かな  野衾