付き添い

 

・トンネルを抜けて息吐く秋の風

 

病院の待合のベンチに
老夫婦が座っておしゃべりをしていました。
ふたりとも年相応に耳が遠いらしく、
なかなかの大声です。
わたしはひっそり
文庫本を読んでいたのですが、
リルケの言葉より
どうしても
老夫婦の言葉が耳に飛び込んできます。
旦那の不具合に
奥さんが付き添ってきているのでした。
やがて、
看護師に指示され、
杖を頼りに
男性が立ち上がり、
まっすぐ廊下を歩き始めます。
奥さん、
すぐに立ち上がれず、
ゆっくりゆっくり
立ち上がり、
手荷物を確認してから
杖を床に突き突き
ようやく
歩き始めました。
首を小刻みに震わせながら
「待って、よ。すぐに、上手に、歩けない、の」
「……」
「待ってよ、って、いってる、でしょ。すぐに、上手に、歩けない、の」

 

・病院の窓や無言の秋の海  野衾