夢の再現力

 

・一日の疲れ置き去る秋の朝

 

好きな映画なら
細部を思い出すのにDVDで済みますが、
現実のこととなると、
なかなかそうはいきません。
芸人綾小路きみまろに名言「あれから40年」がありますが、
忘れることは、
人間に備わっただいじな能力であり、
それがあるから
生きていられるということも
ありそうです。
しかし、
不思議なのは夢。
四十年経とうが
五十年経とうが、
たとえば人物ならば人物、
景色ならば景色、
DVDよろしく
細部にわたって
ありありと再現される
ことはもちろん、
そのとき擡げたこころのありようまで
つぶさに甦ってきて
驚かされます。
現代科学によって
記憶のメカニズムが
どこまで解明されているか分かりませんが、
不思議に打たれ
ひっそりと朝を迎えたとき、
ひとりの小さな子供がぽつんと
いるだけです。

きょうは会社を休みにし、
金沢文庫から六国峠を通り、
社員総出で鎌倉まで歩きます。
吟行を兼ねての遠足。

 

・六十年過ぎて新し秋の朝  野衾

 

危ない!

 

・コンバイン操作する手のふるへかな

 

会社帰り、
薄暗い歩道(日が短くなりました)
を歩いていると、
ひとりの若者がスマホを眺めながら
直進してきます。
そのほんの数メートル後ろには
自転車に乗った女性の姿。
けっこうなスピードで
まっすぐこちらに向かってきます。
わたしが避けても
若者が避けても
自転車にぶつかりかねません。
一瞬の事でした。
頭に血が上ったわたしは
大喝一声。
「馬鹿者! 危ない!」
馬鹿者の若者は
ハッと目を上げ、
「スミマセン」
おかげで事なきを得、
三人無事にそれぞれの道を帰っていきました。
おしまい。

 

・健やかな体とこころで稲を刈る  野衾

 

まるっとドジョウ

 

・一年の結果占ひ稲を刈る

 

昼てくてく歩いて野毛の福屋さんへ。
週に一度はドジョウを食べないと
なんとなく
気持ちが落ち着きません。
このごろはすっかり丸定ファン。
割いたドジョウでなくまるごとのドジョウを鍋で煮たもの。
きのうは若女将が煮てくれました。
けっこう太ったドジョウも入っていました。
ちゃんと火が通っているので、
身は柔らかく
頭までコリコリ
よく噛み噛みし
残らずいただきます。
まさにいのちをいただくわけで。
秋田では稲刈りたけなわ。
八十六の父は
日に日に元気になります。

 

・こぼすなよ百姓今ぞ稲を刈る  野衾

 

論証好き

 

・一日の疲れしんしん鉦叩

 

ただいま通勤途中で読む本は、
アウグスティヌス
『神の国』
同じ著者の『告白録』は面白く読んだのに、
こちらはどうも面白くない。
どうして面白くないかといえば、
ひたすら論証論証で、
神々をつぶしにかかっている。
キリスト教護教の本だから、
仕方ないとはいえ、
なんでもかでも、
証明しないことには気が済まないというか何というか…
考えてみれば、
ヨーロッパ伝来の
哲学にしろ経済学にしろ、
論理と証明なわけで、
自然科学がもともと
そうした発想なんでしょうねえ。
いやぁ疲れる。
でも、
途中で投げ出すのも
癪に障りますから、
もう少し付き合ってみることにします。

 

・左からまた右からも来る虫の声  野衾

 

ぶり返し

 

・顎引いてそろりそうろりキリギリス

 

今月に入って早々に風邪をひき、
一週間ほどで治ったと思っていたところ、
また風邪をひき、
同じような症状なので、
これいわゆる
ぶり返し。
喉が痛く、微熱があり、体がだるい。
そうなると、
好きな本を読む気にもなれず、
ただおとなしく
寝ているだけ。
鼻水が収まり、
痰も切れたので、
いくらなんでも治ったでしょう。
が、
ぶり返しならぬ
ぶりぶり返しにならぬよう要注意!

写真はひかりちゃん提供。

 

・秋高し黒四点の烏かな  野衾

 

稲刈り

 

・薄青き空はおとなし虫集く

 

台風の影響から、
なかなか予断を許さないところがありましたが、
秋田のわが実家では、
この土日あたりに稲刈りを行うようです。
昨年に比べ数日の遅れ。
父八十六歳、母八十二歳、
田仕事は今年が最後となります。
農家の長男に生まれながら、
家を離れて四十年、
都会暮らしがずっと長くなりました。
が、
季節のめぐりに合わせ、
思い出すのは
ふるさとの山、川、空、
そして、
実った稲穂が風に揺れる光景です。
思い出すだけで
息が深くなる。
さしずめ水元公園の桜を思い浮かべる寅さんのようなもの。
無手勝流の俳句を始めて十年になりますが、
それだって、
ふるさとへの思慕のなせる業か
とも思います。
やはり、
ふるさとは、
遠くにあると想うよな~。

 

・公園の夜を賑はす虫の声  野衾

 

若き才能

 

・目的を失くすまいぞえ鰯雲

 

雨のそぼ降る17日の日曜日、
みなとみらい
ランドマークプラザ一階の
「サカタのタネガーデンスクエア」
にて、
神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンサートがありました。
料金ダータ!
指揮は神奈フィル副指揮者の
阿部未来さん。
二階通路から見聴きしましたが、
始まる前の立ち姿から決まっていて瞠目。
わたしはだいたい、
日本人の指揮する姿を見ていると、
なぜか
見ているこっちが
恥ずかしくなり、
サブイボを生じさせてしまうこと
しばしばなれど、
未来さんの指揮は、
彼がどんなに大きな動きをしても、
サブイボは一度も発生せず。
素人目ながら、
動きに必然性を感じたからでしょう。
演奏者との間の
見えない糸が見えるようでもあり、
若きすばらしい才能に触れ
ありがたく
うれしく、
久しぶりに
こころから感動しました。
彼が秋田出身であることにも吃驚。
野生と気品が充ちています。

 

・古傷や骨に染み入る背の秋  野衾

 

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