岩波文庫

 

・世の裏も表も中も蟬の声

 

ドナルド・キーンさんの『日本文学史』を読み終えましたので、
電車内で読む本を、
アウグスティヌス『神の国』に替えました。
『日本文学史』中公文庫。
『神の国』岩波文庫。
さてこの岩波文庫、
字が小さい。
車中、
焦点を合わせるのに苦労します。
岩波文庫には、
古今東西の古典が多く入っていて
助かりますが、
なんでこんなに字が小さいの?
というのが少なくありません。
岩波には岩波さんの事情があるでしょうけれど、
分冊数が多くなっても、
訳を変えずに
字を大きくするだけで、
新しい読者が増える気もしますが、
どうでしょう。

 

・夏草の香を嗅ぐ少年発情す  野衾

 

人間まるごと

 

・かき氷宇治金時を寝釈迦かな

 

帯津良一『一病あっても、ぼちぼち元気』を面白く読みました。
帯に、
「メタボ検診、大きなお世話!
ちょっと血圧が高い
コレステロール値が高い
そんな人は、帯津式健康法で
心も身体もまるごと元気」
期待してページをめくると、
なんともたのもしいことばがバンバンでてきますが、
帯津さんは、
東京大学医学部を卒業した医学博士。
現在は、
帯津三敬病院の名誉院長、
れっきとした医者です。
病を見て人間を見ないあり方に警鐘を鳴らし、
人間まるごとの健康を提唱しています。
まるごと、
うん!
数値ばかりを気にすると、
きのうまで健康だったひとが、
きょうから病人、
そんなことになりかねないとも。
帯津さんは、
ご自身痛風持ちで、
左足の親指がちょくちょく痛くなるそうです。
が、
そんなの気にしない。
腫れた親指が靴に入らず、
サンダル履きで講演に出かけるときもあるのだとか。
こういうお医者さんがいてくれると、
いてくれるだけで、
なんともこころづよい。
帯津さんは1936年生まれ、
まるっとにこやかな
八十一歳のおじいちゃん先生です。

 

・涼しさやゴクリ飲み干す喉の音  野衾

 

女子大は

 

・風吹くや汗が楽するあばた顔

 

とある学会の講師に呼ばれ、
五反田の駅から歩いて会場へ向かいました。
緑に囲まれた小高い丘の上にある
閑静なたたずまい。
階段の上から若い女性が数名下りてきて、
すれちがいざま、
こんにちは、
(はい)こんにちは。
礼儀正しい女子大生です。
校風なのでしょう。
女子大生たちの挨拶に
気をよくし、
指定された建物に少し早めに着いたので、
用を足そうとし、
はたと気が付いた。
そうか、
ここは女子大か。
男子トイレが圧倒的に少ない。
案内板をにらみ
やっと男子トイレのある場所を見つけ、
ゆっくりと、
腹の袋が空っぽになるまで力み。
さてこれでよし。
準備万端。
会場には、
どんどんひとが集まっておりました。

 

・坂道を汗を拭き拭き上りきる  野衾

 

 

・片蔭に入るも頭は突き出たり

 

右肩にカバン、
右手に打ち合わせのためのゲラと本二冊、
左手にスーパーで買った果物、
体を引きずるように歩いていると、
酒屋の主人がわたしを見、
さっと右手を斜め上方に伸ばしました。
なにかと見れば、
虹。
ああ。
虹ですか…
さっきはもっと濃かったんだけどね。
暑いですねえ。
暑いねえ。
どうもどうも。
どうも。

 

・屋にいて外の世界の涼しかり  野衾

 

ブラジルと

 

・開閉す呼吸のごとく夏の蝶

 

このごろはまた朝、
サイフォンでコーヒーを淹れて飲んでいます。
今週はブラジルとケニア。
サッカーの試合みたいですが、
そうではなく、
コーヒー豆を二種類買ってきては、
自分でブレンドした味を楽しんでいます。
ブラジルは若いときから好きな豆でこれは定番。
珈琲店の若いマスター、
以前は、
「ブラジルとおお、もうひとつ何にしますか?」
と訊いてくれたものでしたが、
今はきっぱりと、
「ブラジルときょうはケニアにします」
マスターおすすめのものを
提示してくれます。
そのほうが、
わたしもありがたい。
「はい。それでお願いします」
ケニアの次はどこの豆だろう?

 

・黒揚羽写真拒みて消えにけり  野衾

 

老人一年生

 

・赤さびの手すりを登る揚羽かな

 

もうすぐ還暦を迎えますから、
老人です。
自分を老人と思うことが、
いまのところ新鮮で、なんとなくウキウキ。
こころにランドセルの
老人一年生。
ワクワクしながら昼の野毛へ。
肉料理の店が新しくできていたので、
恐る恐る入り。
若者がハチの巣にたかるハチのごとくに居る店は、
避けなければいけません。
が、
そんな感じでもなく。
窓側の静かな席に案内され、
わたしカツ定食、
イシバシ親子丼。
けっこうな量。
にしては、
安い。
ひとくちひとくち、
ゆっくり何度も何度も噛んで、
これで大丈夫!
となってからようやく嚥下。
我ら老人一年生。
カツ定食を半分ほど食べたころ、
にわかにカツの脂が気になりだしました。
一年生であることを自覚し、
ここですっぱりと諦め
終了。
値段が少々高くても
脂身を減らしてほしかった。

 

・片蔭に生き物のみな集まれり  野衾

 

洗車雨

 

・キンキンと後頭に来るかき氷

 

先日鎌倉で行われた句会に投句された俳句に、
洗車雨なる単語が登場。
国語辞書、歳時記にも出てきませんが、
七月六日に降る雨を「洗車雨」
せんしゃう、
と呼ぶのだそうです。
なぜならば、
一年に一度の逢瀬を恃む彦星が、
織姫に会うために乗っていく牛車を前日に洗い、
それが雨となって天上から降ってくる、
そういう意味合いだそう。
知らなかったー!!
歳時記に乗っていなくても、
七月六日限定ですから、
これは夏(歳時記的には秋)に決まっています。

 

・かき氷さじ舐めあとは眠るだけ  野衾