セロファン俳句

 

・朝寒の夢で湯に入る二度寝かな

阿部筲人(あべ・しょうじん)『俳句 四合目からの出発』は、
あの辛口文芸評論家谷沢永一が絶賛したほどの
いたって真面目な俳論書なのですが、
真面目なだけに、
かえって笑える箇所が少なくなく、
たとえばこんなの。

○軽羅の衣風に恥骨の際立てり

という例句を引用した後、
(この例句自体、もう笑える。
「軽羅の衣」は「けいらのい」
あるいは「けいらのきぬ」と読ませるのか)
阿部筲人いわく、
「薄地の、多分洋装でしょう、ま向かいからの風に、腿にぴったり貼りついて、
おそその辺がぷっくりふくらんだと、一応写実風に描きますが、
作者はつまらぬ所に目をつけたことが明らさまです。
言い方はドライで、気分的には、必ずしもわい雑下劣ではありませんが、
興味の中心が浅い所に止まりました」
こういう句を称して、
セロファン俳句。
そのこころは?
薄っぺらで透明スカスカ。
あはははは…
わたしが言うんじゃありません。
阿部筲人がそう言うんです。

・北風や慢心するなの声を聴き  野衾

シドニー・ベシェ

 

・百数ふれば佳きことありや冬木立

きのう帰ってき、
CDの棚を見ていましたら、
シドニー・ベシェが目につき、
そうか、
このごろとんと聴いていなかったな、
というわけで
シドニー・ベシェ。
あのプワ~ン、ホワ~ンとした音をどう表現
したらいいのでしょうか。
耳に心地いい音を楽しみながら
晩ご飯を食べていて、
つい、
「あ!」
っと口から洩れました。
ななんと、
「吉田類の酒場放浪記」の曲ではありませんか。

酒場という聖地へ、
酒を求め、
肴を求めさまよう…

のナレーションが入るときの
まったりもったり
耳について離れない懐かしいあの曲、
あれだあれだ間違いない、
そうか、
あれはシドニー・ベシェの曲だったのか。
ほんと、
たしかにプワ~ン、ホワ~ンで
まったりだ。

・石垣をふたつ飛ばしの落ち葉かな  野衾

箱入り息子の恋

 

・秋日和ガネーシャの鼻伸び二寸

床に入ってうつらうつらしていましたら、
家人は起きていてテレビを。
仰向けになったまま、
音だけ耳に入っていたのですが、
なにやら面白そうで
ついむっくり起きだし
最後まで。
作品に力があっての賜物。
平泉成、森山良子、大杉漣、黒木瞳と、
脇をそうそうたる役者で固め、
星野源が熱演、
笑わせてもらいました。
それにしても、夏帆さん、
夏帆ちゃん、
顔は知っていましたが、
こういう芝居をする人だったんですねえ。
かわいい!
やられちゃいました。

・秋日和釣り道具手に遠出かな  野衾

ああ勘違い

 

・ビルの肩払ひて上る宵の月

いつものように朝四時に起き出し
まず用を足し、
それからいそいそと
洗面台の鏡に向かい歯を磨き、
ひょいと
右横の時計を見ましたら、
二時半。
一時間半のズレ。
さて寝床に戻って寝直すか。
いや、五時間半寝たから良しとするか。
とりあえず、
眠くなるかならぬか、
眠くなるまで起きててみよう。

・蕎麦でいい否蕎麦がいい秋日和  野衾

矢萩英雄木版画展

 

・秋晴れや洗濯物と野良の猫

画家・装丁家の矢萩多聞さんのご父君・
矢萩英雄さんの木版画展を見にギャラリーこやまへ。
ヒデさん(いつもそう呼んでいます)
このごろ
ガネーシャ
(ヒンドゥー教の神様で、太鼓腹と象の頭部が目立つ)
に凝っていると
本人から聞いていたので、
近所のまるちゃん、
家人を誘い、
三人で出かけました。
わたしは前にも行ったことがありますが、
小さいギャラリーながら、
アットホームな、
居心地のいいスペース。
久しぶりにヒデさんと話もでき、
気に入った版画を購入。
まるちゃんは二点。
ギャラリーこやまは、
東横線綱島駅東口下車、徒歩1分。
おもしろいですよ。

・秋日和家人ぼりぼりポテチ食ぶ  野衾

マルバノキ

 

・凩や剥がれ転がるもののあり

草花の名前が覚えられずに、
いつも悔しい思いをしておりますが、
きのうはひとつ覚えました。
マルバノキ。
札にそう書いてありました。
会社近くに大きなマンションがあり、
その周囲に
草木が植えられていて、
札に名前が書いてあるのです。
葉っぱが円いからマルバノキなんでしょうか。
真っ赤に紅葉し
なかなか賑やかです。
やっぱりアプリ開発してほしいなぁ。
スマホで写真を撮ると、
すぐに
その植物の名を教えてくれる、
そういうアプリ。

・図書館の冬を切り裂く烏かな  野衾

俳句マンガ

 

・交差点話す者無し冬の月

『あかぼし俳句帖』二巻読了。
定年まで残すところ五年となった明星啓吾(あかぼしけいご)
が主人公。
いわゆる窓際族で
しょっちゅう煙交(援交でなく)と称し、
喫煙室で煙草を燻らせている。
その赤星が、
行きつけの料理店で俳人の水村翠(みずむらすい)と
出会ったからさーたいへん。
(たいへんてこともないですが)
水村は秋田出身で若くて美人。
とくれば、
おのずとストーリーは見えてくるというもの。
今のところ四巻まででています。
俳句についての
小難しい参考書を読むより
ずっと勉強になる。
俳句に関する決まり事や句会の進行の仕方など、
ストーリーに組み込まれているので、
無理なく覚えられます。
またさらに、
すらすらっと読みながら、
ときどき、
そうだなあ、
そういう時ってあるなあと
しみじみ感じ入ったり反省したり。
今日はこれから三巻目。
二巻目の終わりのほうに、
北鎌倉での吟行句会がでてきて驚いた。
だって、
こないだ北鎌倉に集合し
吟行やったばかりだったから。

・すれちがふ冬の女の匂ひかな  野衾