仕事を呼ぶ

 

・ビル見上げ行きつ戻りつ蟻のごと

この仕事をしていて面白いと思うのは、
個人的な興味関心と響きあうような仕事が、
かなりの頻度でもたらされること。
エリオットを読んでいると、
エリオットを研究している先生からの問い合わせがあり、
中野好夫を読んでいると、
シェイクスピア関連の論考が寄せられ、
またなんとなく、
バルザックを読もうかなぁ
と思っていた矢先、
バルザックの新訳や、
研究論考が机上に載っていたりと。
不思議というしか言いようがありません。
嵐を呼ぶ男は、
1957年に公開された
石原裕次郎主演の日本映画ですが、
同じ年に生まれたわたしは、
さしずめ
仕事を呼ぶ男?
なんて。
とにもかくにも、
自分が興味を持っているひと、
関心を持っていること
に関係する原稿を
いちばんに読めるというのも、
編集者の仕事のいいところだと思います。

・カナヘビや主(ぬし)も暑いか舌を出し  野衾

ジョーズ

 

・夢うつつ我が身世にふる星祭り

記憶違いでなければ。
初めて見たのは高校卒業の日。
ジョーズを見るか
百恵友和の春琴抄を見るか、
迷わずジョーズにしたのだったかと。
映画館に行く前に
卒業証書を寿司屋に忘れ、
たしか後で取りに行った。あった。よかった。
そのジョーズ、
きのうテレビでやってました。
つい最後まで見てしまいましたよ。
船が傾いで船長が甲板を滑り落ち
サメに食われるシーン、
ドド、
迫力あったよなぁ。
映画館では、
見ているこっちまで食われる気がし、
前席のシートを思いっきり踏んづけたっけ。
二十年ほどまえ、
以前勤めていた会社の社長と
アメリカに行った折、
ユニバーサルスタジオを訪ねたら、
ジョーズが上手に飾ってあった。
へ~、これであったか。
坊主は屏風に。

・七夕や流れ星ゆく五十年  野衾

冷蔵庫

 

・スマホ飽き賢治片手の木下闇

数年前からたまにヴウォン
と、
獣が暴れるような音を発していた我が家の冷蔵庫が、
ウォーーーーーン
と、
パルス信号がフラットになるような具合に
低音を発するようになり、
とうとう、
ただの白い戸棚と化しました。
ドアを開けても、
まったく冷気なし。
静かにただそこに立っています。
二十五年は使いましたから、
寿命が来たのでしょう。
ネットで調べたら、
こんなに長持ちなのは珍しいようです。
よく働いてくれました。
シャープ製でした。
いろいろ思い出もありまして…。
グスン。
て、
浸っている場合ではありません。
新しいの買わなくちゃ。
行かなくちゃ。
買いに行かなくちゃ。

・夏草や小さきいのちの伏せ処  野衾

たっ、たたっ、たぬっ

 

・まな板のおと木霊するミズタタキ

缶ビールで喉をうるおし、
一日の締めの晩さんを終えソファで寛いでいたころ、
モサモサッ
とベランダに黒い影。
いきなりそれは現れました。
どでかい猫っ、
と思いきや、
さにあらず、
紛うことなき、た、ぬ、き。
しかも子連れ。
母だぬき、窓越しにこちらを凝視。
まともに目があい、
それからおもむろに子を従え、
隣の部屋のほうへ去っていきました。
いやああああ、
ほんとうに驚きました。
これまでこの辺で
狸を見たとか、
わたしも俺もと言われても、
そんなに多くいるなら、
なんでおいらが一度も見ないのさ、
と、
眉につばして聞いておったのですが、
いやはや。
しかも、
ほんの二メートル先ですもん!
そうか。
ここ御殿山は、
にんげんの御殿でなく、
たぬき御殿であったのか!

・ギザギザと陰を求めて酷暑かな  野衾

多機能トイレ

 

・夏の日のすることもなし仮寝かな

先週土曜日は鍼灸の日。
横浜駅で電車を乗り換え、東横線の元住吉駅下車。
上りエスカレーターで改札口へ。
そのまえにトイレへ。
わたしの行動はだいたいが習慣化しています。
ふと見れば、
多機能トイレのランプが消えており、
使用可能な状態を告げています。
時間に少し余裕がありましたから、
なかが広い多機能トイレでゆっくり用を足してから
と思い、
ランプの上のセンサーへ掌をかざします。
スーと、
静かにドアが開いていきました。
ら、
あっ!
あっっ!!
帽子をかぶった中年の男性がパンツを下し、
便器にまたがっています。
(注:いまはズボンのことをパンツと言い、従来のパンツもパンツで
紛らわしいわけですが、便器の男性はズボンもパンツも
いっしょに下していましたから、「パンツ」だけで話が済みます)
わたしも驚きましたが、
便器の彼はもっと驚いたでしょう。
およよよよ~~~~
みたいな、
変な声を発し、
ズボンを、
いやパンツを下したままの状態で、
ドアを閉めるべく立ち上がってきました。
それより一瞬速く、
「スミマセン!!」
大声であやまり、
急いで外のセンサーに掌をかざしました。
何事もなかったごとく、
ドアはスーと閉まりました。
その後わたしは、
ふつうの男子トイレで用を足し、
それから改札を抜けて外へ。
ほどなく鍼灸院へ到着。
指示されたベッドに横になってからも、
あの男性、
ズボンとパンツに
ウンコが着いてしまったのではないか
と、
そのことが頭を離れません。
運が付いたか?
冗談を言っている場合ではありません。
にしても、
使用中であるにもかかわらず、
どうしてあのランプが消えていたのかが不思議です。

・傘差さず雨のなか来る鯲売り  野衾

七月

 

・今月は盛夏来るぞと勇みをり

今日より。
爪の伸びるのも速いが、月日の経つのも速い。
光陰は矢のごとく、
タイムは、
ライク・アン・アロウと
フライし、
月日は百代の過客であれば、
いたしかたもなし。
無い髪の伸びも速いわけだなぁ。
明日は針灸。
とりあえずデトックスして、
総ざらい。
いろいろ考えることもあるけれど、
まあなんとかなるさの気持ちも忘れずに。
みなさま、
どうぞよい週末を。

・気づくまでその名も知らず半夏生  野衾