厚い茄子

 

・蜘蛛の巣の雨の滴の地に落ちず

昼、野毛にある
なじみの店にイシバシと行きましたら、
女将さんが、
「きのう漬けたものですが、どうでしょう」
と言って、
茄子の漬物をくださいました。
女将さんの漬物は絶品で、
いついただいてもハズレ無し。
しゃきっとした茄子がほどよく漬かっており、
きゅっきゅっ
とする食感を楽しんでいるうちに、
あっという間に、
最後のひと切れになりました。
イシバシおもむろに、
また及び腰に、
「あのー、すこし厚いようですが…」
切り身の厚い最後の茄子を
自分が食べていいのか
と許可を欲しているようで、
その言い方があまりに可笑しく、
呵々大笑。
「いいよいいよ。食べたらいいじゃん!」
そこでイシバシ、
厚手の切り身をつまんで口中へ。
と、
「あら。口のなかで二つに割れた」
「バカ野郎、あはははは…。いまさらどうするんだよ」

・梅雨の中くっつきそうな傘が行く  野衾

ひとの手

 

・茎紅きミズを並べて友も居て

本は物なので、
頭で考えるだけではつくれません。
自分の手が必要だし、
多くは
ひとの手を借りなければなりません。
会社のひとの手もあるし、
外のひとの手もあります。
そもそも本には著者がいます。
ひとの手が
頭で考えたとおりに動けば
事は単純ですが、
じぶんの手だってじぶんを裏切ることがあり、
まして他人の手となると、
こちらが思うように、
願うように
動いてくれることはありえない、
と、
ひとまず考えたほうがよさそうです。
会社で若いひとを見ながら、
物をつくるには、
ひとの手を
じぶんの手として使うことが欠かせない
と改めて思い知らされます。
がんばれい!

・ふるさとの窓の灯りやミズタタキ  野衾

氷っこ

 

・まな板に恨みなけれどミズタタキ

秋田では
いろんなものに「こ」を付けてよぶわけで、
氷も氷っこ。
氷を氷っこと呼称するだけで
かわいいというか、
いとおしいというか。
きのうは、
ビールの代わりに、
水に氷っこを入れて晩酌としました。
アイスコーヒーに、
ただの水にでも、
氷でなく氷っこを入れて飲むと美味しく感じるから
不思議。
だまされたと思って、
みなさんもぜひ氷っこを。
ぶっかき氷の場合だと、
ぶっかき氷っこ(ぶっかきごおりっこ)
となって、
やんちゃな男の子みたい。
ですが、
ぶっかき氷っことは言いません。

・叩くたび山の木霊のミズタタキ  野衾

しきらどした

 

・嘴太やお前も傘が欲しいのか

クマを避け、
ピッピを鳴らしながら採ったというミズが先週末とどき、
つぶしてたたいて刻んでから、
炊き立てのご飯にのせていただきました。
んっめー!!
こでらえねー!!
さっそく秋田に電話。
父も母も満足気。
ミズ採りの日、
腰を痛がる母は、
クルマのなかで待機していたのかと思いきや、
語気強く否定されました。
「なだど。おいも採ったたでゃ」
(注:なにを言っているの。わたしも採ったんだよ)
クマに襲われず家に帰ってきたら、
首のあたりに違和感を感じ、
手をやったら
ヒルが張り付いていたのだとか。
でもたいしたことはなかったそうです。

そこで一句、

山よりの清きこころのミズを食ぶ

おかげで、
こころもからだもきれいさっぱり、
すっきりとしました。
秋田ではこういう感じを、
しきらどしたな!
「し」の発音が標準語とちがって、
歯の近くに舌をもってきて発音します。
ではどうぞ。
しきらどしたな!
はい、よくできました。

・閑としてアシダカグモの居座れり  野衾

アイスコーヒー

 

・ゴミ網の驚き貌の守宮かな

このごろわたしのいちばんは、
手作りアイスコーヒー。
豆を挽き、
サイフォンでコーヒーを淹れるところまではいっしょ。
ビールジョッキに前もって
ぶっかいた氷っこ
(標準語では氷。秋田で氷っこ)
を入れておき、
淹れたコーヒーを
氷っこの上からじゃーと注いだら出来上がり。
いたって簡単。
これ飲んだら、
缶コーヒーなんて飲めねーよ、
飲むけど。
北鎌倉駅そば儀平の
かりんと饅頭なんか添えたら、
そりゃもう最高!

・雨やんで網をねぐらの守宮かな  野衾

ピッピ

 

・朝降ってやがて降り止むここ三日

この季節の秋田の山菜はミズ。
たたいて刻んで味噌と山椒と和えるミズタタキが定番料理。
炊き立てのご飯にのせて食べれば、
そりゃもうコデラエネ!
(コデラエネは、たまらないの意)
いつも父に頼んで送ってもらうのですが、
今年はクマの被害が多発しており、
心配になって電話したところ、
きょう発送するべく採り終えたとのこと。
まじめな父のこと、
前もってミズのある場所を確認に行き、
日を改めて山に入ったのが昨日。
クルマをふもとに置き
何度もクラクションを鳴らしてからいよいよ山の中へ。
山中にあってはピッピを鳴らしてクマを警戒、
事なきを得、
ミズを採取してきたそうです。
ありがたし!
ピッピといえば、
『長くつ下のピッピ』
を連想される方もおられるでしょうが、
ピッピは秋田弁で
ホイッスルのこと。
促音の「ッ」は限りなく短くして発音します。
ほとんどピピに近く。
ピピピピピピピピピピピピピピ…
クマ退散!
よかった。

・山までの一升五合の汗しぼる  野衾

うだっこ

 

・駅をでて透けて華やぐ夏料理

秋田では、
いろんなものに「こ」を付けます。
椀こ、皿っこ、きびちょこ、いもっこ、がっこ、…。
たばこを秋田ではたばこっこといいます、
ウソです。
たばこの「こ」は
秋田弁だろうかと勘違いし、
東京へ出たとき、
「たばください」
と言ったという笑い話がありました。
さて、
形のあるものだけでなく、
形にないもの、
たとえば歌に「こ」を付け
「うだっこ」といいます。
「うだっこでもきいで寝るがぁ」
(歌でも聴いて寝るとするか)
このごろこれが気に入って、
ひそかに使っています。
一日の終りに
好きなうだっこ聴いて一杯やれば、
あとはなんも要らん。
寝るだけです。

・恋のうへ過ぎて帰らぬ七変化  野衾

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