忘忘

 

・桜散る空に羽抜けの烏かな

今度は、
取っ手のところがアヒルの頭を模したようなる傘を失くしまして、
馬鹿かと。
いや、自分に。
保土ヶ谷駅のホームにある蕎麦屋で失くしたので、
翌朝さっそく行ってみました。
「緑色の傘を忘れていませんでしたでしょうか」
「これですか?」
「いえ。取っ手がアヒルの頭の形をしている緑色の傘です。
ここに忘れたと思うのです」
「そうおっしゃられても…」
「そうですか。失礼しました」
失くしたのは夕方で、
店のひとが違っていましたから、
すごすごとホームのいつも乗る場所へ戻りました。
ふつうに一日仕事をし、
帰りがけ、
やっぱり諦めきれずに
また訪ねたら、
傘を失くしたときに店に立っていたおばさんで、
その旨を話したところ、
おばさんも
わたしの顔を憶えてくれていて、
気の毒そうに、
朝見せられた緑色の傘を持ち出してきて、
「これのほかに緑色の傘はございませんね」
「そうですか。ぼくの勘違いだったかもしれません。失礼しました」
もうもう。
体は鉄のナマコのような状態で。
階段をやっと上り終えて家のドアを開けたら、
傘たてに見たことのある緑色の傘。
取っ手がアヒルの頭の形をした…。
ななな、
なぜここに!?
忘れたと思い込んだことも驚きなら、
傘たてにちゃんと置いたことも
忘れてしまっていたということになります。
しかも朝、家を出るとき、
なぜそこにあることに気づかなかった!?
いやはや。
馬、馬鹿かと。

・入学式校舎裏手に人も無し  野衾