少年の関心

 

・三月を無言の少年目で語る

髪が伸びたので、
保土ヶ谷橋交差点にある行きつけの床屋へ。
客が他にいなくて
やったー、
と思うときも
ほんのときたまありますが、
だいたいは混んでいます。
急な階段を上り左手のドアを開けるとき、
ほんのすこし緊張します。
きのうは、
ドアを開けると
色白の少年が椅子に坐り、
カッと目を開き、
目の前の鏡を見ながら
リーゼントの床屋の説明に聞き入っていました。
床屋のことばは、
おとなと話すときとは違っているようです。
儀礼的でないというか。
床屋談義でなく
ちゃんとちゃんとに話している。
少年はそのたび
微かにうなずきます。
勉強より友だちより、
まして女の子より、
少年のいまいちばんの関心事かもしれません。
床屋はそのことをよく知っている。
そういう話し方。
昔はこういう床屋が、
いや、
おとなが周りにいたなぁ。
髪が出来上がる直前、
少年の友だちと思しき
髪の毛つんつんの背の高い少年が入ってきました。
迎えに来たようです。
床屋はその少年にも話しかけていました。

・少年の髪に答ふる床屋かな  野衾