二日連続

 

・鶯や来鳴き姿を隠しをり

家人の妹と娘ふたりが遊びに来、
初日は江の島散策、
二日目は、
建長寺から入って天園ハイキングコースを。
いやあ、
歩いた歩いた。
初日一万七千歩。
二日目約二万歩。
とくに江の島は、
立錐の余地無きほどの混雑ぶり。
「肌寒いし、曇り空だし、まだそんなにひとが出ていないじゃないの」
と勝手な想像をしながらでかけたところ、
みなさん、
同じような想像をしていたのか、
こんなに混んだ江の島は初めてだ~!!
といった感じ。
ところで、
北鎌倉駅を出、
ほんの少し横浜方面へ戻ると、
「うすかわ饅頭の儀平」というお店があります。
白い幟が数本、
ホームからも電車からも見えます。
清潔できれいなお店。
コーヒーセットもあり、
美味しかったあ!
調べたら、
2014年秋オープンといいますから、
割と最近のこと。
本店は、
本州最南端、
和歌山県の串本だとか。
北鎌倉店は支店。
近くにいいお店ができました。
休日、
儀平さんで
コーヒーとうすかわ饅頭をいただいて帰る、
それもいいなと。

・頼まれもせぬに開花を宣言す  野衾

小村井

 

・世は世とて春一刻の香を焚く

写真集の表紙、表紙カバーの印刷立ち会いのため、
東武亀戸線小村井駅へ。
小村井と書いて
「おむらい」
初めて降りました。
酢を入れるとオムライス、
てか。
昭和レトロな匂いぷんぷんで、
いやあ、
こころ晴れ晴れ。
天気もいいし。
待ち合わせ時刻より20分早く着いたので、
駅の周辺をぷらぷらと。
踏み切りの角にある交番のおまわりさんがこちらを見ています。
かまわず、
ぷらぷらぷらぷら。
ぷらぷら。
びっくりそば。
「当店は、本年一月三十一日をもって閉店と致します。
長らくのご愛顧ありがとうございました。  店主」
の貼り紙。
どれだけつづいたのでしょう。
メニューの看板は張り出されたまま。
かけそば二六〇円は安い!
と。
また、
ぷらぷらぷらぷら。
駅のほうへもどって。
おまわりさんと目が合った。
かまうもんか。
ん。
ラメ入り黒いストッキングの姐さん。
カンカンカンカンカンカン…。
間に合うか間に合わないか間に合うか、間に合うか、間…、
間に合った!
「おはようございます」
「あ。お、はようございます」
装丁家の桂川さんでした。

・妖しくて鼻が眼となる春の宵  野衾

たまの肉

 

・沈丁花夜の馨りを白くせり

基本的に肉より魚料理が好きですが、
たまには
ハンバーグとかステーキとか、
肉料理も食べたくなります。
昨年五月、
よく行く太宗庵のななめ向かいに、
肉料理のお店
カントリーハウス桜木町がオープンしました。
本店はどうやらサイパンらしく。
ときどき、
いや、
たまに行って
よく焼いた肉を所望。
花壇歓談ウエルダン!
は。
血の滴るようなのはどうも苦手。
220グラム、330グラム、450グラムとありますが、
わたしは220グラムで十分。
いっしょにでてくるガーリックチップスが肉の旨さを引き立て、
特製ソースをかけ
ジューッとやると、
えもいわれぬ香りがひろがり食欲をそそります。
たまには肉もいいなぁと。
問題は翌日。
ガーリックチップスの威力凄まじく、
どんなにロッテのガムを嚙んでも、
歯磨きをいつもに倍して念入りにやっても、
もわっと、
なんとなくニンニク臭。
ニンニクの服を着ているような錯覚すら覚え。
いかんともしがたい。
が、
他人を寄せ付けず、
ていうか、
近寄ってきませんので、
仕事に集中するにはもってこい。
てか。
振り返れば、
カントリーハウスレストランに行ったのは、
いずれも確か水曜日。
太宗庵が休みの日でありました。

・天蓋へ春はあけぼの烏鳴く  野衾

見えてきたこと

 

・沈丁花白き花弁の厚さかな

出版界の大手取次である栗田出版販売の倒産につづき、
太洋社が自己破産の申請を出したとのニュース。
業界全体の売り上げが、
ピーク時と比し四割減ということですから、
やむを得ないのかもしれません。
日本の出版界のネックは
本の再販売価格維持制度に在りとは、
昔から言われてきたことですが、
それがここにきて
なし崩し的に融けはじめていると思わずにいられません。
「本は他の商品とちがって文化的価値を有する」
という言説を、
わたしは眉唾物だと思って
これまで聴いてきました。
それは、
本にかかわるひとの最大の驕りだと今も思います。
本の価値を言うならば、
再販制など声高に叫ばなくても、
古本市場は
インターネットのおかげで、
かつてないほどの活況を呈しています。
本に文化的価値ありとすれば、
古本にこそそれはあると信じます。
古本になったとき、
どれだけの価値が下支えされているか、
それこそが問われる。
また、
「本はこれから電子書籍の時代へと突入する」
的な言説も
いつの間にかどこへやら。
このごろは、
「電子書籍で生き残るには」
をテーマにした講演会が開かれたりもし、
世の浮沈はめまぐるしく。
まさに風次第なる浮世哉といったところですから、
向かう方向を間違えないようにしたい。
あ。
以上の文脈で下の写真を見ると、
倒産した会社の倉庫と思われる方があるやもしれませんが、
そうではありません。
昨日、
ただいま進行中の写真集の印刷立ち会いのため
武蔵浦和にある印刷工場に行ってまいりました。
その時の写真です。

・沈丁花妖しく薫る君なりき  野衾

残業感

 

・鶯や少年負けじとイッテキマース

仕事帰り、
保土ヶ谷駅の改札を出、
通路の端に寄りスマホから家人に電話するも、
留守録に切り替わったので、
仕方なく歩き始めようとしたその刹那、
濁流のように移動してゆくひとの群れの中に
家人発見!
流れに逆らって泳ぐように
つつーいと近寄り、
肩先をつんつん
「おいおい」
振り返った家人
「あらま、どうしたの?」
「電話しても出なかったから」
と、わたし。
「残業だったの。疲れたわ」
と、家人。
「ふ~ん」
「そうなの」
「ふ~ん」
「なによ?」
「ざんぎょう…」
「だから、なによ?」
「いや。残業と残尿、似ているなあと思って…」
群れのなかの三、四人は
振り返ってわたしを見ました。
家人、
プイッと前に向き直り、
何事もなかったかのごとく
ひたすら、
まっすぐに歩いていきます。
あわてて追いかけ、
「どうしたの?」と話しかけるも、
家人「他人他人」
と言いながら、
残業疲れを忘れたように
たくましく歩いていきました。
おしまい。

・春雨や濡れて参るにゃ強すぎる  野衾

少年の関心

 

・三月を無言の少年目で語る

髪が伸びたので、
保土ヶ谷橋交差点にある行きつけの床屋へ。
客が他にいなくて
やったー、
と思うときも
ほんのときたまありますが、
だいたいは混んでいます。
急な階段を上り左手のドアを開けるとき、
ほんのすこし緊張します。
きのうは、
ドアを開けると
色白の少年が椅子に坐り、
カッと目を開き、
目の前の鏡を見ながら
リーゼントの床屋の説明に聞き入っていました。
床屋のことばは、
おとなと話すときとは違っているようです。
儀礼的でないというか。
床屋談義でなく
ちゃんとちゃんとに話している。
少年はそのたび
微かにうなずきます。
勉強より友だちより、
まして女の子より、
少年のいまいちばんの関心事かもしれません。
床屋はそのことをよく知っている。
そういう話し方。
昔はこういう床屋が、
いや、
おとなが周りにいたなぁ。
髪が出来上がる直前、
少年の友だちと思しき
髪の毛つんつんの背の高い少年が入ってきました。
迎えに来たようです。
床屋はその少年にも話しかけていました。

・少年の髪に答ふる床屋かな  野衾

かほりの酒

 

・白れんやいよいよ空の青さかな

いま会社では五種類のお香を焚いています。
朝いちばんは白檀、
つぎは伽羅、
昼食後は松栄堂の芳輪堀川を、
三時過ぎに沈香で、
五時ごろ三千院特製のを、
ほかに台湾製のもありますが、
焚くとちょっと煙いきゃら
窓を開けて
つよく邪気を払いたい、
みたいなとき使用。
いずれ腐敗した世界に産み落とされたのだから、
せめて好いかほりを嗅いで暮らしたい、仕事したい、眠りたい、
あそびたい。
かほりの酒のようなものでしょうか。

・朧なる保土ヶ谷出でて戸塚まで  野衾