世界は色で

 

・極楽寺おぼろに融けるひとを見し

おぼつかなげながらはじめたスマホも
近頃だいぶ慣れてき、
人並みに、
ひょいひょいスースー指先を画面に這わせています。
ガラケーからスマホになっても
やることはほとんど、
もとい、
まったく変りなく、
電話とメールと写真のみ。
かたくなに。
撮った写真の多くはここに掲載していますが、
ある時、
あ、この花を撮ろう
と思って
スマホを鞄から出したとき、
色に反応している自分に改めて気づきました。
形もさることながら、
色々の色。
それも天然の。
これ、印刷で出ないなあ。
神様か。

・歓楽の街にひつそり桃の花  野衾

 

・三月を露ひとつぶの重さかな

つかこうへいの『熱海殺人事件』だったでしょうか、
「弁護士に頼るような犯人はきらいだあ!」
みたいな台詞があったのは。
その伝でいくと、
注に頼るような学術書は嫌いだあ!
みたいなことになりかねません(ちがうか)が、
これは、
学術書が学術書であるかぎり、
そういうわけにもいきませんで、
先行研究を正確におさえ、
シャープで無駄のない面白い注は、
むしろ、
本文を支える縁の下の力持ちになります。
小西甚一さんや
ドナルド・キーンさんの注は、
注にも気が通い、
文章もテンポがよく、
読んでいて実に気持ちがいい。
ほんの一行挟まれた小ネタも楽しく。
「一回り二回り外の読者」
へ本を届けるには、
こういう注への目配り気配りも大事ですから、
日々の仕事の参考にしようと思います。

・夜桜や蒼にピンクの色を添ふ  野衾

出会いと別れ

 

・思い出も遠く淡くの桜かな

いきなりですが、
日本人は昔から出会いと別れを、
いや、
日本人だけでなく、
ひとは、
といったらいいでしょうか、
詠んできました。
出会いのよろこびと別れの悲しみの感懐をもつことことが
リトマス試験紙になり、
すぐれた詩のよさに触れることも
またよろこばしく、
文章はまさに千古の事です。
千古とは、
過去にさかのぼっての遥かな時間
と思っていましたが、
吉川幸次郎の本を読んでいたら、
未来に向かっての遥かな時間も「古」で表し、
したがって、
千古は未来永劫、
永遠ということにもなる
ということですから、
これからも、
出会いと別れの歌は無数に詠まれていくでしょう。
春は好きな季節ではありますが、
どうも感傷的な気分になっていけません。

・天気予報外れて嬉し春の宵  野衾

靴のちがい

 

・うぐいすや谷に湧き出る水を誉む

二週つづけて鎌倉天園ハイキングコースを歩きました。
保土ヶ谷-北鎌倉間は電車ですが、
家について歩数を確認すると約二万歩。
先々週はレッドウィングの赤い靴。
先週はティンバーランドの茶色い靴。
いずれも
ふだん履きの好きな靴ですが、
ふだん会社との行き帰りでは七~八千歩ほどで、
ちがいをあまり意識しません。
しかし、
二万歩、
それも山を歩くとなると、
ちがいはおのずとあるようで、
同じ距離なのに、
長く感じたり短く感じたり。
桜はやっと二分咲きから三分咲き。
鎌倉は、
今週末がピークでしょうか。

・鮨店の大将身を退く三月尽  野衾

ネット売り上げ

 

・宣長のこころもゆかし桜かな

春風社のインターネット上の売り上げが、
前年比三十数パーセント増であることが分かりました。
つくっている本の多くが学術書である
ことを考えれば、
うなずける数字です。
振り返ってみればわたし自身、
街の本屋に立ち寄るのは、
隔週で通う鍼灸院の行き帰りのみとなりました。
必要な本、読みたい本はほとんどネット書店で購入します。
いつの頃からか、
どこの本屋に行っても臭みがなくなり、
ツルンとして面白くない。
個性もなければ毒もない。
問題のひとつは返品制度です。
売れなければ返せばいい…。
売れなければ返せばいい
と思って仕入れる商品の棚が
魅力的なはずがない、
というのは極論ですが、
著名な書き手の名前を書店員が読めなかったり、
簡単な漢字の書名を読めなかったりするのも、
もとを正せば、
問屋から送られてくるものをきれいに並べておき、
売れなければ返せばいい式が
現在の状況を生んでいる
といっても過言ではないでしょう。
どの本屋も、
売れなくても返せない
となったら、
おのずと仕入れに気合が入り、
必死に売ろうとするのではないでしょうか。
そのために、
商品知識を得ようと
出版社に問い合わせをして来る
ようになったら面白いし、
街場の本屋が変る気がします。

・遠方より春風駘蕩友ふたり  野衾

編集価値

 

・思い出を誘ひ寂しも桜かな

昼、
会社近くのマイ・カフェへ行き、
カウンターに向かい腰掛けていると、
グラスの水を持ってきたマスターが
「この雑誌、インターネットみたいで面白いですよ」
ん!
インターネットみたい…?
ランチ定食を待つ間、
示された雑誌をぱらぱらめくって見ているうちに、
マスターの言った意味が分かる気が。
どのページも、
ネット上のページをそのままもってきて印刷したみたい。
へ~。
なんとなく新鮮。
で、
ぱらぱらと。
でも、
じっくり読みたくなる風ではなく。
従来型の編集でない編集がコンセプトなのかもしれません。
一時のものの感じがし、
雑誌を閉じました。
このごろは、
仕込みの時をあまり経ずに目に触れ
耳に触れるモノ・ヒト
が多くなった気がします。
素人全盛。
一時の流行と思いたい。
マルクスを読んできたわたしとしては、
編集価値説を採りたい気分。

・春の夢哀しみの痕濡れてをり  野衾

昭和は遠く

 

・寅さんの啖呵弾ける桜かな

途中で寝てしまいましたが、
テレビで昭和を懐かしむ番組をやっていたので、
仕事疲れから、
しばらく呆けて見てました。
思うに、
このごろこの手の番組が多くなった気がします。
いろいろグッズが紹介されていたなかに、
腕時計のバンドに付ける
アルミのカレンダーというのが登場。
呆けた頭に血が巡り、
つい、
あああっ、
あった、あった、あったー!!
って叫んでました。
わたしも付けてましたもの。
アレ、
付き合いのあるメーカーから
サービス品としてもらうことが多かった。
あったあった。
便利ではあったけど、
思い起こせばダサくもあり。
いまふつうに使っているモノも、
あと二十年ぐらい経てば、
え~~~っ、なにソレ!?
ってなるんでしょう。
ケータイもスマホもその類かも。

・陸を夢見蝌蚪ら頭を沈めをり  野衾

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