Archives : 3月, 2016

世界は色で

 

・極楽寺おぼろに融けるひとを見し

おぼつかなげながらはじめたスマホも
近頃だいぶ慣れてき、
人並みに、
ひょいひょいスースー指先を画面に這わせています。
ガラケーからスマホになっても
やることはほとんど、
もとい、
まったく変りなく、
電話とメールと写真のみ。
かたくなに。
撮った写真の多くはここに掲載していますが、
ある時、
あ、この花を撮ろう
と思って
スマホを鞄から出したとき、
色に反応している自分に改めて気づきました。
形もさることながら、
色々の色。
それも天然の。
これ、印刷で出ないなあ。
神様か。

・歓楽の街にひつそり桃の花  野衾

 

・三月を露ひとつぶの重さかな

つかこうへいの『熱海殺人事件』だったでしょうか、
「弁護士に頼るような犯人はきらいだあ!」
みたいな台詞があったのは。
その伝でいくと、
注に頼るような学術書は嫌いだあ!
みたいなことになりかねません(ちがうか)が、
これは、
学術書が学術書であるかぎり、
そういうわけにもいきませんで、
先行研究を正確におさえ、
シャープで無駄のない面白い注は、
むしろ、
本文を支える縁の下の力持ちになります。
小西甚一さんや
ドナルド・キーンさんの注は、
注にも気が通い、
文章もテンポがよく、
読んでいて実に気持ちがいい。
ほんの一行挟まれた小ネタも楽しく。
「一回り二回り外の読者」
へ本を届けるには、
こういう注への目配り気配りも大事ですから、
日々の仕事の参考にしようと思います。

・夜桜や蒼にピンクの色を添ふ  野衾

出会いと別れ

 

・思い出も遠く淡くの桜かな

いきなりですが、
日本人は昔から出会いと別れを、
いや、
日本人だけでなく、
ひとは、
といったらいいでしょうか、
詠んできました。
出会いのよろこびと別れの悲しみの感懐をもつことことが
リトマス試験紙になり、
すぐれた詩のよさに触れることも
またよろこばしく、
文章はまさに千古の事です。
千古とは、
過去にさかのぼっての遥かな時間
と思っていましたが、
吉川幸次郎の本を読んでいたら、
未来に向かっての遥かな時間も「古」で表し、
したがって、
千古は未来永劫、
永遠ということにもなる
ということですから、
これからも、
出会いと別れの歌は無数に詠まれていくでしょう。
春は好きな季節ではありますが、
どうも感傷的な気分になっていけません。

・天気予報外れて嬉し春の宵  野衾

靴のちがい

 

・うぐいすや谷に湧き出る水を誉む

二週つづけて鎌倉天園ハイキングコースを歩きました。
保土ヶ谷-北鎌倉間は電車ですが、
家について歩数を確認すると約二万歩。
先々週はレッドウィングの赤い靴。
先週はティンバーランドの茶色い靴。
いずれも
ふだん履きの好きな靴ですが、
ふだん会社との行き帰りでは七~八千歩ほどで、
ちがいをあまり意識しません。
しかし、
二万歩、
それも山を歩くとなると、
ちがいはおのずとあるようで、
同じ距離なのに、
長く感じたり短く感じたり。
桜はやっと二分咲きから三分咲き。
鎌倉は、
今週末がピークでしょうか。

・鮨店の大将身を退く三月尽  野衾

ネット売り上げ

 

・宣長のこころもゆかし桜かな

春風社のインターネット上の売り上げが、
前年比三十数パーセント増であることが分かりました。
つくっている本の多くが学術書である
ことを考えれば、
うなずける数字です。
振り返ってみればわたし自身、
街の本屋に立ち寄るのは、
隔週で通う鍼灸院の行き帰りのみとなりました。
必要な本、読みたい本はほとんどネット書店で購入します。
いつの頃からか、
どこの本屋に行っても臭みがなくなり、
ツルンとして面白くない。
個性もなければ毒もない。
問題のひとつは返品制度です。
売れなければ返せばいい…。
売れなければ返せばいい
と思って仕入れる商品の棚が
魅力的なはずがない、
というのは極論ですが、
著名な書き手の名前を書店員が読めなかったり、
簡単な漢字の書名を読めなかったりするのも、
もとを正せば、
問屋から送られてくるものをきれいに並べておき、
売れなければ返せばいい式が
現在の状況を生んでいる
といっても過言ではないでしょう。
どの本屋も、
売れなくても返せない
となったら、
おのずと仕入れに気合が入り、
必死に売ろうとするのではないでしょうか。
そのために、
商品知識を得ようと
出版社に問い合わせをして来る
ようになったら面白いし、
街場の本屋が変る気がします。

・遠方より春風駘蕩友ふたり  野衾

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。