しろばんば

 

・電車内広々したる炬燵かな

りなちゃんが読んでおもしろかったというので、
わたしもと。
むかし読んだような気もするのですが、
すっかり忘れています。
洪作少年の一喜一憂が
我がことのように感じられ、
こちらも一喜一憂。
たとえば小学校の運動会でのエピソード。
長距離競争を前に、
洪作が通う学校で教師をしている若い叔母のさき子は、
カミールという清涼剤を三粒、
洪作の手のひらに載せてくれます。
「これ上げる。これ呑んでおきなさい。よく駈けれるから」
五十名ほどの生徒がスタートラインにつきます。
さき子と「いい仲」の中川先生の「用意!」の声が、
洪作の五体に滲みわたります。
そしてつぎの文句。
「洪作は涙ぐましい気持になっていた。遠い未知の国へ遠征の途に上る者の気持であった」
大げさというなかれ!
長距離走を前に、
こんな気持ちにならない子どもがいるだろうか。
頁をめくるごとに、
凍結していた子どもの心が融け始め、
目がしらを熱く濡らします。
さき子からもらったカミールが効いたかして、
洪作はひとり抜き、
ふたり抜きして、
ついに
五等でゴールします。
そこに至るまでの描写というものは、もうもう。
泣けて泣けて、
なりふりかまわず、
声を出さずに
思いっきり泣きました。

・大寒や車中居眠る心地よさ  野衾