忘れるために

 

・秋澄むや香の煙の天に立つ

四か月ほど前になるでしょうか、
NHKの朝の番組に
谷川俊太郎さんが出ていました。
出勤前のこととて
最後まで見られませんでしたけれど、
番組中、
谷川さんが自作の詩を朗読する場面がありました。
詩集のページを開いたとき、
有働由美子アナウンサーとコンビの
V6井ノ原快彦くんが、
「おぼえてないのですか?」と質問。
谷川さん笑って
「おぼえていませんよ」
こまかいニュアンスは忘れてしまいましたが、
たしか
そんなやりとりがあったはずです。
それを見ながら、
そうだよな、と思いました。
小説なんかに比べると、
詩は短いし、
有名な詩人なんだから、
本を見なくてもそらで読み上げるのでは

イノッチ思ったのでしょう。
わたしも、
こういう仕事をする前は、
イノッチと同じように思っていました。
ところが、
つたなくても
自分で文を書くようになってみると、
いっしょうけんめい書いたのに、
書いた後
そんなに時間が経っていない
にもかかわらず、
すっかり、
すっからかん、
というのは言い過ぎかも分かりませんが、
かなりな程度忘れます。
谷川さんのような有名な方でも、
そのことに関しては同じなのでしょう。
忘れるために書く、
といえば
これまた言い過ぎかもしれません。
その分だけ抱けるといっても。

・冷えまさり日月過去へ遡る  野衾