お母さんにエンガワ

 

・新米や水少なめに炊きにけり

会社帰り、
JR桜木町駅にある回転寿司の店にて
焼酎の水割りを一杯やりながら寿司をつまんでいると、
回転するベルトの向こう側から
子どもの声が聞こえてきました。
「マグロください」
「わさびは要らないね」と板さん。
「エビください」
「蒸してあるのとナマのがあるけど?」
「蒸してあるのください」
元気な利発な子どもです。
気分がよくなり、
そちらに目をやれば、
三歳ぐらいかとも思える男の子と、
向かい側に母親と、
男の子の弟でしょうか
もうひとり座っています。
三歳と思えたおにいちゃんは、
注文するときのキレのあることばづきから判断するに、
三歳ではなく四歳かもしれず、
しかし五歳にはなっていないでしょう。
顔立ちもきりりとし、
向かいのお母さんによく似ています。
と、
「お母さんにエンガワください」
あはははは…。
つい声がでてしまいました。
お母さんにエンガワください…。
そうか
お母さんにか。
焼酎の水割りを
今日は一杯だけで終りにしようと思って店に入りましたが、
つい二杯目を注文しました。
「お母さんにスミイカください」
わたしもつられて、
「スミイカください」

・寿司屋にてお母さんにの声ひびく  野衾