Archives : 10月, 2015

寒いのか

 

・焼いて佳し煮て佳し母のきんきかな

こう寒暖の差が激しいと、
自分の感じ方に自信をなくし、
「いま、寒い?」
などと
間抜けな質問をすることになります。
トイレに立っての帰り、
「半袖ですか。そうですよね」
廊下の後ろから声を掛けられました。
振り返ると、
となりの教育研究所の所員さん。
いわれて気づけば半袖でした。
暑く感じて上着を脱いで仕事をしていたものと思われます。
自分のことなのに、
「思われます」もないのですが…。

・校正を終えてとっぷり冬の月  野衾

母と子

 

・上り来てくたり真似たき薄かな

ある個人院でのこと。
息子に連れられ
老母がやってきて
受付前のベンチに座っておりました。
看護婦の話しかけから想像するに、
家で転んだかして腰をしこたま打ってしまったようです。
診察の順番になり、
また看護婦がやってきました。
息子に支えられ立ち上がり二歩、三歩。
もう動きません。
「歩けるだろ。歩けよ!」
怒鳴り口調で息子が言います。
「痛い。痛い。歩けない…」
「ほら。支えてやるから」
「痛い。痛い。歩けない…」
「無理をさせてはいけません。車椅子を持ってきますね」と看護婦。
その後、
車椅子に乗り
診察室へ移動していきました。
しばらくして車椅子に乗せられた老婆と
七十は越している男性、
車椅子を押す看護婦が目の前を横切り外へでて行きました。
そんなことがありました。
あのおばあちゃん、
たしかに痛かったのだとは思います。
しかし、
ベンチから立ち上がり
二歩、三歩と歩いたことから察するに、
その後の痛がり様は
並大抵でなく、
また、
息子の話し掛けのときの
棘は鋭く、
痛いことは痛かったろうけれど、
ある含みのある
痛さだったかと思われます。
息子よ。
息子よ。

何か訴えていたようです。

・こっちゃ来い銀色ゆかし薄かな  野衾

肛門科

 

・燈下親し睡魔来るや転落譚

いまはすっかりよくなりましたが、
四十代のころ痔病に悩まされ、
新聞広告で見かける高価な薬を試したり、
名医と称される医者を肛門、
いや訪問、
あはははは…
したこともたびたび。
本も出している銀座の名医を訪ねたら、
肛門がたとえていうなら
古いゴムホースのような状態で、
手術すれば、
元の若々しい肛門になりますよとおだてられ、
その気になったのですが、
八王子の気功の先生に相談したところ、
気が滞るから
絶対やってはいけませんと忠告され、
手術をキャンセル。
電話でキャンセルしてもよかったのですが、
またいつ世話になるかも知れず、
断るためだけにわざわざ出向きました。
待合室できれいな和服の女性がいて、
ああ、
このひとも
あの医者の前で肛門をさらすのかと思ったら、
可愛そうになりました。
だってあの医者、
口の周りに髭が生えていて、
それも剛毛で、
かつて流行ったタカアンドトシの「欧米か」にならっていえば、
「肛門か」と言いながら
頭をはたきたくなりましたから。
いくら肛門科の先生だからといって、
口の周りを肛門にみたてなくてもいいじゃないか。
さて、わたしの持病の痔病、
なぜ治ったかといえば、
気功のせいですかね。
青汁のせいですかね。
とにかく治ってよかった。
手術しなくてよかった。
あの和服の女性、どうなったかな?

・身に沁むや遥か知りたる屋の灯り  野衾

わかめうどん定食

 

・煌々と雲の上なる月夜かな

重い靴で馬車道まで歩くのはたいへん。
近くでおいしいお店といえば、
まず太宗庵。
そば佳しうどん佳しカツ丼佳し。
ですが、
このごろこの店では、
せいろそばと
玉子とじうどんしか食していなかった
ことに思い至り、
久しぶりに
ご飯に
醤油のかかった半熟玉子が付いてくる
わかめうどん定食を所望。
きつねうどん定食にも
若干こころが動きはしたものの
それは止め。
たぬきにはこころ動かず。
器に入っている半熟玉子を箸でタテに切り、
それからヨコ、
さらにこまかく切って切って
醤油とよく交ぜ、
湯気の立っているご飯の上に、
ご飯茶碗からこぼれぬよう
ご飯を少しよけ
玉子を流し入れます。
わかめうどんの汁だけレンゲで掬い、
口中に含み湿らしてから、
おもむろに
玉子かけご飯をひとくち。
あああああ。
うんッめーーーー!!
秋田弁なら、
こでらえねえ!!
となるところ。
「ごちそうさまでした」
「久しぶりの定食でしたね」
「はい。美味しかったです」
「食欲の秋ですものね」

写真は、先日NHKのど自慢に出場した秋田のなるちゃん提供。

・気にかかる仕事こなして良夜かな  野衾

ヒトラー暗殺

 

・秋の風ペットとともに来りけり

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』を観に川崎・チネチッタへ。
家具職人が一人で
ヒトラーの暗殺を計画し
実行したものの、
それが失敗に終った実話に基づく映画で、
観終わったあと
金縛りにでもあったようでした。
金縛りは、
寝ているときに起きますが、
ナチスの時代のドイツは、
夢の中の空気感が
じわりじわり
怖い方向へ向いていくのと
まさに同じであったと思わされました。
ユダヤ人と付き合っている女性が
「わたしはユダヤ人と付き合っているブタです」
と首から札を下げ、
公衆の面前でさらし者にされたり、
ナチスの制服に身をかためた子どもらが、
教会に向かうリベラルな人びとを罵倒したり、
ほんの数か月前まで、
そんなことはなかったのに、
恥ずかしくてできなかったのに、
少しずつ少しずつ、
あたりまえだったことが
あたりまえのことでなくなっていく。
そうならないように
しなければいけないと強く思った次第。

・想念も紙も飛ばして爽気かな  野衾

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三浦衛(みうら・まもる) 春風社代表にして自慢大王&悪ノリ大王。体調のいいときは自らを天才と称し、不調の折はちりあくたにも劣るヤツとしょんぼり。

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三浦衛の本


『カメレオン』
 三人ときどき声にならぬ声を洩らし/とろけ とろけ 唾までとばし/クヂるとナメるとネヂるとチョす…(「鳶」) 自在に色を変え、不意に突き刺さる、軽妙なことばの戯れ。秋田方言満載の詩集。本文は金属活字による活版印刷。


『マハーヴァギナまたは巫山の夢』
 三平佐世夫は、千一夜の夢うつつで女と戯れ、印度に旅し、睾丸を抜かれ、鰐を飼い、横浜を彷徨う。言語の崖っぷちを綱渡りする、めくるめく冒険。本文活版印刷に美麗造本を施した平成の大奇書。


『父のふるさと』
 父の目に映じた故郷の風土、ひと、くらし、農事を、愛惜をこめ描きだす。本文は金属活字による活版印刷。「身と蓋函」に納める。


『出版は風まかせ』
 横浜の出版社「春風社」社長が本づくりと会社経営にまつわるエピソードを豊富におりまぜ、創業から10年を振り返る。