抽斗

 

・道逸れて風にしな垂る芒かな

会社の角に置いてある
キャビネットを片付けていたら、
抽斗のなかから
古い写真がひょいと現れ、
ハッとしたり
ギョッとしたり。
一昨日お目にかかった
O先生の写真もありました。
いつも若々しくいらっしゃるので、
年をとらないみたいだなぁ
と思っていますが、
十数年前に撮った写真を見ると、
あたりまえですが、
やはり今とは違っています。
ある大学の女子学生が社を訪ねてきたとき、
みんなでカラオケに行き
歌っている写真もでてきました。
専務イシバシも武家屋敷もわたしも若い。
女子学生はその後、
大学院に行き、
今はフランスにいて、
ヨーロッパ中世美術の研究に余念がありません。
抽斗は、
物をしまうときは、
何の気なしに
ぽんぽん入れて置くだけですが、
ときが静かに降り積もり、
やがて
しまった物を
忘れてしまう頃おい、
いつの間にやら
玉手箱に変化発展を遂げ、
こちらはだれもみな
例外なく、
浦島太郎になっていくようです。

・台風圏酢橘持ちたるひと来る  野衾