分厚い本

 

・湯を出でて暗き家路や虫集く

子どもの頃から、
どちらかというと分厚い本が好きでした。
農家のこととて、
本のない環境でしたから、
余計にそういう好悪が育まれたのかもしれません。
初めて買った分厚い本は、
岩波書店の広辞苑。
分不相応なぐらい厚かった。
重かった。
机の上でページを開くだけで、
少しえらくなった気がしたものです。
高校に入ったら、
祖母が、
むかし勤めていた旅館の女将さんから
二宮金次郎像をもらってきたので、
もっとえらくならねばいけない
気がして、
本を読みました。
薄い本より、
分厚い本のほうが
えらくなりやすい気がした。
さて、
これから読もうとしている分厚い本は、
小西甚一の『日本文藝史 Ⅴ』1142ページ。
これは分厚い!
ふつうにポンと立ちますからね。
ほら。
しかし、
これを読むためには、
Ⅰ~Ⅳを読む必要がありまして、
まずそちらから
始めなければいけませんが、
そちらはどの巻もそれほど分厚くありません。
Ⅴのみ千ページを超えます。
最終巻のこのボリューム、
しっかり勉強しなさい
と気合を入れられているような、
そんな分厚さです。

・露天風呂裸の腹に秋の雨  野衾

真夜中の雄叫び

 

・出航の船の霧笛や秋を告ぐ

句会の夢を見ました。
野外でしたから吟行ですかね。
冨士眞奈美さんや吉行和子さんもそこにいて、
だれもだれも、
いっしょうけいめいつくっています。
と、
どこからか、
見知らぬ鉤鼻のいかにもな老婆が現れました。
フードをかぶり、
ごつごつした杖を突いていたりして。
あ!
魔法使いのおばあさん!
おばあさん、
苦吟しているわたしのほうへ
まっすぐゆっくり向かってきます。
いやだなあ! わずらわしいなあ!(←こころの声)
さらに近づいてきて、
木の枝のようなる指で
わたしの顔を指し、
「そんなに眉間に皺を寄せてもいい句はつくれまいて。
ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ…」
笑い方まで
魔法使いの定石どおり。
もうもうわたしは頭にきて、
立ち上がり、
ドゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…」と大音声。
声の大きさだったら、
魔法使いにだって負けはしない。
ドゥア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛…
「どうしたの? だいじょうぶ? うなされているよ!」
眼が覚めました。
となりで寝ていた家人が
怪訝そうにわたしを見ています。
「怖い夢でも見たの?」
ふむ。
あれを怖い夢といっていいものか。
魔法使いのようなる老婆を追い払うため、
雄叫びを発したのは
わたしであって。
「いや。すまない。スミマセン。寝ましょう」

・ゆっくりと石の階段秋黴雨  野衾

ぼくの速読術

 

・新聞社ひと少なしの爽気かな

本を速くは読めませんが、
つづけることはあまり苦でなく、
したがって、
長いものでもいつか終ります。
学習院の中条省平先生から
三浦さんはイソップみたいなひとだからなぁと、
ご指摘を受けたゆえんです。
が、
速読をしないわけでもありません。
それを「読む」行為に含めるか否かは少々問題ですが…。
まず、本を手に持ち、
上下にゆすり上げ重さを確かめる。
ジャケットのデザインを眺め、
手触りを味わいつつ
おもむろにジャケットを外し、
表紙の紙とデザインを凝視する。
ジャケットはおおむね華やか、
対して表紙は地味なものが多い。
地味な表紙の意匠に
本作りの思想が現れているとぼくは思う。
なんて。
表紙を開き、
見返しとのバランスを確かめ、
本扉、共紙の扉があれば共紙扉、目次をゆっくり読んでいく。
本文を飛ばし巻末の奥付を見る。
著者の略歴を読む。
さていよいよ本文。
最初の十ページをゆううっくり読む。
十一ページ目からはパラパラとページをめくり最終まで。
十一ページ目からのパラパラを三度繰り返す。
以上。
ぼくの速読術です。
これでなにほどのことが分かるか。
いや、
けっこう見えてくるところがありまして。
これなら
一冊一時間とかかりません。
眼球の動かし方がどうとかと
アクロバティックなことも不要。
手と指で読む。
ただしこれは、
紙の本に限ります。

・秋なれば烏の声も澄みにけり  野衾

BGM

 

・秋深し友と一献江之島亭

職場に小さなCDラジオがありまして、
小さな音で
だいたい一日中音楽が鳴っています。
演奏時間が一枚一時間ほどかかるCDでも、
一日中
ということになると、
けっこうな枚数になりますので、
それはそれで忙しく、
適当にラジオに切り替えては、
J-WAVEやNHK-FM
をかけっ放しにしておきます。
いろんなジャンルの
いろんな曲がかかりますから、
楽しくもあり。
ところが、
演歌はどうもいけません。
演歌自体は好きだし、
家ではしょっちゅう聴いているのに、
広い静かな職場に、
♪ 波の~谷間に~いのちの~花が~
というのは、
いかにも合わない気がします。
ていうか、
読んでいる原稿に集中できなくなる。
好きな歌だと余計です。
北島先生、三波先生、村田先生しかり。
TPOに応じて
ということなのでしょう。

・江ノ電を見遣り道草猫じやらし  野衾

男女混合レース

 

・秋風やゴトリ自販機釣りを取る

混浴もあるくらいですから(笑)
すべてのスポーツにおいて、
男子と女子が
いっしょにゲームを楽しむ、
ことにしたらどんなもんでしょう?
なんてことを、
ふと思いまして。
テレビに張りついて観ていた
世界陸上が終ってしまいましたが、
たとえば4×100メートルリレーで、
ジャスティン・ガトリンがアリソン・フェリックスに、
ウサイン・ボルトがシェリー=アン・フレーザー=プライスに、
それぞれバトンを渡すレースだったら、
タイムを競うだけでなく、
バトンパスにこれまでとちがったニュアンスが
ほんのり現れそうで、
観ていて
もっと楽しくなるんじゃないでしょうか。
限界に挑むのもいいけれど、
仲良く楽しくレースをし、
それを観て楽しむ
のもいいじゃないかと。
男女混合年齢別リレーとか。

・まなこ閉づ二百十日の稲穂かな  野衾