広告

 

・西瓜来て玄関口に三日あり

つきあいのある広告代理店のNさん来社。
料金が格安の小さい広告ですが、
二本東北の新聞に載せたそのお礼に。
広告業界も案の定、
厳しいようです。
自分のことを振り返っても、
かつては新聞の三段八割広告
(通称三八〈さんやつ〉新聞1ページ目の下にずらずらーと並ぶ広告)
を切り抜いて本屋に持っていき、
「この本ありますか?」
なんて訊いたりもしました。
なつかしい。
いま、
そんなことしないもんなぁ。
気になる本があれば、
インターネットで調べ、
レビューを参考にするぐらい。
Nさん曰く、
「出版社を訪ね広告の企画書を渡すと、
紙がもったいないからメールで教えてよ、
と、
その場で企画書をひねりつぶされることもあります」
淡々と話してくれましたが、
実際は、
憤懣遣る方なかったろうなあ。

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の二十五回目が掲載されました。
コチラです。

・兜虫兜重たく汁を吸ふ  野衾

花火のせい?

 

・保土ヶ谷の宿より見上ぐ花火かな

花火大会だったんでしょうね。
きのうの仕事帰り、
桜木町駅は大混雑し、
駅員がでて整理にあたっていました。
初々しい浴衣姿が大勢。
それでも
平日のことゆえ、
前へ進めないぐらいではありません。
早々に家に着き、
晩酌をしながら、
つぎつぎに上がる花火を眺めておりました。
見たことのない型のも多くあり。
外側の円が先に光って内側に向かうもの、
まぶしいぐらい強烈な光を放つもの、
円の中に水平な光が走るもの、
などなど。
さてどうやら終わったかと、
やおら立ち上がり
空いた食器を台所に運び、
テレビをつけたら
さっき通った桜木町駅の映像が現れ。
へ~、
全国放送のニュースでねえ。
そんなに大きな花火大会だったのか知らん?
ん?
どうやらそうじゃない。
なに?
架線故障で電車立ち往生…。
花火の火花が架線に飛び火したとか?
そうではない。
でも、
大会当日というのが気にかかる。
なにか引火関係、
いや
因果関係があったのか知らん?
駄じゃれ言ってスミマセン。

・猛暑日の記録を告げる痩せ男  野衾

空のいきもの

 

・子らのない八月ぽっかりグラウンド

朝から蝉が鳴いています。
駅構内や電車内のアナウンスは五月蝿く感じるのに、
蝉ならいくら大音量でも五月蝿くない。
このごろ歩いていて、
蝉の死骸に間々ぶつかります。
けろんとひっくり返っています。
ひょいとつまむと、
実に軽い。
軽すぎて、
これに今までいのちが宿っていたとは
とても思えないぐらい。
スカスカでカラカラ。
まるで脱皮した抜け殻。
背中が割れて木に張り付いている
抜け殻同様、
すっからかんといのちが抜け落ちている。
殻のいきもの、
空のいきもの。

・蝉しぐれ浴びてやうやう江戸に入る  野衾

ツリーハウス

 

・山小屋の歌に飛び入り雹が降る

まだ小学校に上がる前、
よく遊んでもらった近所の久男くん
(ぼくより四つか五つ上)が、
木の上に隠れ家を作った。
秋田だから杉だったろうか?
檜?
欅?
柿の木は折れやすいから、
柿の木ではなかっただろう。
はるか遠くの記憶で、
夢のようでもあるけれど、
足元から覗く地面の揺れと空の青さは忘れられない。
のだが、
空についての印象は、
その後に聴いた、
中島みゆきの
「この空を飛べたら」
の歌によって醸された空想かもしれない。
むかしむかしに、
ひとは鳥だったかもしれないと
歌は語りかけてくる。
ちなみにわたしは酉年です。
さてそういう基本の夢を叶えたひとがいる。
詩人の佐々木幹郎さん。
幹郎さんは子どもだなぁ。
いいなぁ。
本気なんだもん。
群馬県嬬恋村にそれはあった。
木の上にしっかりと設えられた板の間に立つや、
五十年前の記憶は
けして夢でなく、
久男くんと遊んだあの日も
あの日も、
手が届かないだけで、
ほんのすぐ近くにあるような気がしてくる。
風の音まで違って聞こえる。
木の上は不思議。
一晩近くの宿に泊まり、
翌朝、
ふたたび木に登った。
五十年は早い。
百年はもっとかもしれない。

・雷も嬬を恋ふるや宿を割る  野衾