葱坊主

 

・荒梅雨や晴れて烏が鳴いてをる

定食屋にて。
後から入ってきた四人の男。
奥のテーブル席に着くや、
四人が四人とも
大盛りランチを頼んだあとは、
会話をせずに
無言でスマホを凝視している。
数分の後、
そのうちのひとりが話し始めた。
「………葱坊主のような頭をした奴でさ……」
「なんですか葱坊主って?」
「葱坊主、知らないの? ダメだなあ」
「寺とは関係ないですよねえ」
「お前も知らないの? 村松、お前は知っているだろう」
「妖怪みたいなものですか?
水木しげるの漫画にでてくるような」
「へ~。三人とも知らねーの。
葱坊主を知らないとはね。
いいか、待ってろよ。ええと、ええと、葱坊主と。
あった。ほら。これだよ。な!」
「なんだ。葱の頭じゃないですか」
「なんだじゃねーよ近藤春菜」
「ダジャレっすか?」
「ちがうよ。ほら、これが葱坊主」
「葱坊主なんていうから、こえー妖怪かと思うじゃないですか」
「葱の頭だから葱坊主だよ。
短く刈った頭を坊主頭っていうだろう。
これ、坊主頭に似てるじゃないか」
「先輩、物知りですね」
「物知りって。坊主頭ぐらい、
いや、葱坊主ぐらい覚えてとけよお前ら…」
季節はずれの秋刀魚の塩焼きを骨までしゃぶって店を出た。

・梅雨荒れて足指十本水浸し  野衾