お盆の味

 

・玄関へ何を知らすかアブラゼミ

正月ももちろん楽しみですが、
お盆を待つこころはまた格別です。
待つことの味わいは、
お盆を待つことでおぼえた気もするぐらい。
お盆になると、
昔ほどではありませんが、
今も、
親戚のものが集まり、
いっしょに車で出かけ墓参りをします。
三々五々集まってくる人びとと目礼を交わし。
ご先祖様が主役なので、
度を越して語り合うことはありません。
みんなみんな歳とって、
かと思えば、
少年少女はだれがだれなのか、
さっぱりわかりません。
犬を連れてくる人もいたり。
犬もいたって大人しく。
その物言わぬ風景、お盆の味です。
墓地の近くの同級生の家。
お母さんは元気かな?
梅雨が明け、
暑さはいよいよ本格的になりますが、
仕事をしていても、
本を読んでいても、
食事をしていても、
人に会っていても、
こころはいつになく
風通しがよく、
お盆を迎える静かな祝祭の時に入っていくようです。

・塩連れて大水垂るる酷暑かな  野衾

雪の轍

 

・梅雨明けて映画館まで歩きけり

インド映画のように歌や踊りもなく、
なのに3時間16分。
ああこれはもう寝る、ぜったい。
途中で小用に立つかもしれず。
などと
少々心配しながら臨んだのですが、
豈図らんや一睡もせず、
小用のために中座することもなく、
エンドロールまでちゃんと観ました。
どういう映画かといえば、
ええと、
じぶんの言葉で書くと長くなりそうなので、
安易で恐縮ですが、
パンフレットから引用させていただきます。
「カッパドキアで洞窟ホテルのオーナーとして裕福に暮らす元舞台俳優のアイドゥン。
しかし、若く美しい妻との関係はうまくいかず、
離婚して出戻ってきた妹ともぎくしゃくしている。
さらに家を貸していた一家からは家賃を滞納された挙句に思わぬ恨みを買ってしまう。
何もかもがうまくいかないまま、やがて季節は冬になり、
降りしきる雪がホテルを覆い尽くす。
客もいなくなり、閉じ込められた彼らは、互いに鬱屈した心の内をさらけ出していく。」
ということで、
カッパドキアって、
行ったことありませんが、
こんな土地なんだなぁとまずその風景に見入ってしまいます。
その息を呑むような美しい風景のなかで
繰り広げられる静かな人間ドラマとなれば、
これはもう。
期待は自ずと高まりまして。
いやはや、
夫婦、兄妹の壮絶な言葉のバトル。
観ているこちらがドッキドキするぐらい、
相手をこれでもかというぐらい突き刺す突き刺す。
どんだけ~(古)
肺腑を抉られるとはこのことかと。
また、
家賃を滞納している一家との物語では、
すぐに
「カラマーゾフの兄弟」を連想しました。
妻の下着を盗んだ泥棒たちの一人を刺して殺し、
刑期を終えて出てきたものの、
就職口がなく
無職のままながらも誇り高き兄と
イスラム教の導師の弟。
兄には小学校に通う息子がひとりいるのですが、
この子の目が実にいい。
裕福なホテルオーナーのアイドゥンを見る目、
アイドゥンの車に石を投げガラスを割ったのかと問い詰める父を見る目、
蓬屋を訪ねてきたアイドゥンの若き妻を見る目、
目、目、目が語る。
そして父と子の無言の対話。
泣かせるぜ!
濃密な物語にどっぷりと浸かり、
へろへろになって映画館を出ました。

・祈るごと黒玄米茶啜りけり  野衾

又吉さん

 

・子らを連れ大風来る去りにけり

第153回芥川賞に
又吉直樹さんの「火花」が選ばれました。
受賞後のインタビューで、
若い人へのメッセージを
と水を向けられ、
「最初に僕の小説を読んで合わないからといって、
小説読むのをやめようって思わないでほしい。
僕の作品でジャッジしないでほしい。
100冊読んだら絶対本好きになると思う」
とコメントしたことをネットで読み、
このひとは、
ほんとうに本好きなんだなと思いました。
相方の綾部さんへの
こころくばりもちゃんとあって、
コメントを読んだだけでも、
気持ちが晴れていくようです。
こういうひとが賞をもらってよかった。
芥川賞の発表が、
安全保障関連法案が
衆議院本会議で可決されたのと同日であったのは、
偶然だったかもしれず、
きっと偶然だったのでしょう、
深読みしても始まりませんけれど、
安倍をはじめ、
姑息な政治屋どもに利用されたようで
面白くありませんが、
それは又吉さんの責任ではありません。
きのうの専務イシバシの話では、
又吉さんの『火花』を
買ってはあるけど、
読んでいないとのことでしたから、
さっそく借りて読んでみようと思います。

・天気図をとぐろを巻いて北上す  野衾

ゆっくりゆっくり

 

・生気なき猫目とろりの暑さかな

かつて、
せまい日本そんなに急いでどこへ行く
という交通標語がありましたが、
つくったのは、
高知県の岡本定之助さんという警察官だそうです。
岡本さんの地元には、
石碑が建っているらしく、
それぐらい
人口に膾炙したということでしょうけれど、
それはともかくとして、
なにごとも
ゆっくりゆっくりを心がけている今日この頃、
早起きだけでなく、
早めの行動とゆっくりの動作には、
なにごとによらず、
いろいろの楽しみが
おまけに付いてくる気がします。
たとえばJR保土ヶ谷駅東口側
国道一号線沿いの大木に群棲する雀、
すれ違うエスカレーターでいちゃつく男女、
帰宅途中の階段で
ひっくり返っている虫の腹、
ごみ屋敷のようなるアパートの一室にて
ランニングシャツ姿のまま寝転がっている青年、
台風接近の日の竹と宗教じみた空の色、
などなど、
ゆっくり歩いていればこそ、
目に飛び込んできます。
さて、
きょうの神奈川は、
降水確率90%のはずですが、
当たるでしょうか?
なにを見せてくれるでしょうか?

橋本照嵩『石巻かほく』紙上写真展
の二十二回目が掲載されました。
コチラです。

・七月は待つこと肝に銘じたり  野衾

雀の宿

 

・目が覚めて扇風機の回りたる

保土ヶ谷宿は東海道の宿だったわけですが、
宿は宿でも、
平成の今、
保土ヶ谷には新たな宿が出現しました。
それが雀のお宿。
わたしが勝手に命名しました。
JR保土ヶ谷駅で電車を降り、
東口、
すなわち国道一号線側に出ると、
タクシー乗り場があります。
そこに大きな木が三本立っていて、
昼は見たことありませんが、
夕刻、
ぎゃーというほどの声が
道を越えこちらにまで聞こえてきます。
ちゅんちゅんと鳴く雀も、
何十羽、
ひょっとしたら百羽を超す雀が集まるとなると、
一羽一羽はちゅんちゅんでも、
ちゅんちゅんちゅんちゅんの大合唱となり、
ぎゃ~~~~!!!
凄まじいものがあります。
雀で思い出しましたが、
このごろの雀は小ぶり。
子どもの雀かよと思いきや、
どうやらそうでもないらしく、
れっきとした成長した雀で。
子どものころ
友じいによく食べさせてもらった雀は、
もっと大きかった気がするのですが。
雀を焼いて食するとき、
わたしたちには頭や手羽で、
美味しい胸肉は
孫のお前や覚にくれてやるのを見、
ああ、やっぱり孫にはかなわないと思ったと、
これは叔母さんの発言。

・焼酎や青透明の味すなり  野衾

おじいさん

 

・赤々と我も陽を食む夏野菜

桜木町の駅から会社へ行く途中、
本町小学校横の階段を通りますが、
その端っこに
齢八十には達していないと思われ
(いや、達しているか?)ますが、
小太りのおじいさんが
よく寝ています。
半眼半口で、
寝ているというより、
眠っているようなのです。
眠っていて、
だれが通ってもピクリとも動きません。
いつだったか、
おじいさんを見て
ギョッとした(であろう)おばさんが、
すぐそばに建つマンションの
掃除係りの女性に、
どうやら「不審者」のことを告げているようでした。
話し声まで聞こえませんでしたが、
わたしの前を歩く女性(=おばさん)→
階段で眠るおじいさんを発見→
ギョッ→
後ろを見い見い、
かつキョロキョロし→
掃除係りの女性に話しかける→
話しながらおじいさんのほうにときどき目をやる、
と、
この一連の行動からして、
「あそこに変なおじいさんが倒れていますよ」
ぐらいは言ったのじゃないでしょうか。
おじいさん、
階段で眠れなくなるかな
とも思いましたが、
翌朝、
やっぱり同じ場所で眠っていました。
眠っていますから、
いくらあいさつ好きのわたしでも、
あいさつひとつ交わしたことがなく、
名前も素性もまったく未知ではありますが、
通るたびにそこにいますので、
親近感は自ずと湧いてきますよ。
ところが昨日、
おじいさんはいませんでした。
ん!?
ん……!?
そうか。
だよなあ。
くたばっちまわあ。
涼しいとこを見つけてそこで眠っているんだ。
そうにちげーねー!

・水割りの氷からりと動きけり  野衾

一生懸命パソコン

 

・湯帰りのタオルや首に揺れてをり

自宅でつかっている
ヒューレット・パッカードのパソコンが古くなったので、
買い換えました。
搭載されているOSがWindows XPで、
サポートは終了しているし
そろそろ買い換えたほうがいいですよと
教えてくれる人がいたりして、
とりたてて
困っていたわけでもなかったのですが、
そんなものかしらと、
機械に疎いわたしは
ご教示に従い、
Windows 7搭載のパソコンに
このたび切り替えたというわけです。
いちばん驚いたのは、
機械音がいたって静かなこと。
天と地ほどの差があります。
OSの違いというよりも、
パソコン本体の違いかもしれませんが、
まあこの際、
どっちでもかまいません。
古いパソコンは、
電源スイッチを入れると、
ウィウィ~ンと、
けっこうな音を発し
立ち上がりを知らせてき、
さらにインターネットに接続しようものなら、
ウィウィウィウィウィ~ンと
緊急避難速報の信号音のようだし、
さらに別のサイトに飛ぼうとすると、
もはや爆発寸前かと思えるぐらいの悲鳴を発したものです。
もう慣れていましたから、
こんなものかと諦めてもいましたが、
新しい機械に替えてみたら、
なんともいたってごく静か。
スイッチを入れると、
高級車のごとく(乗ったことありませんが)
ヒュンと鳴るだけで、
インターネットに接続しようが、
ほかのサイトにジャンプしようが、
ほとんどストレスなく
サクサクッと目的のページにたどり着けます。
あの一生懸命パソコン、
引き取られ、
廃棄されるか、
どうされるかわかりませんけれど、
発動機のようだった一生懸命音をいま、
懐かしく思い出しているところです。

・剣山のごときフライを食しけり  野衾